柴田勝家 『デッドマンズショウ 心霊科学捜査官』 (講談社タイガ)

デッドマンズショウ 心霊科学捜査官 (講談社タイガ)

デッドマンズショウ 心霊科学捜査官 (講談社タイガ)

「この事件に怨霊が関わっているのは確かだと思う。けれども、人を刺し、また遺体をバラバラにするなんてことは、物理的な接触がない幽霊では絶対にできない」

映画監督,小平千手が手がけるモキュメンタリー「生きている人達」シリーズの出演者が相次いでバラバラ死体で発見された.霊捜研の陰陽師御陵と刑事音無井は捜査に乗り出すが,謎は深まるばかり.さらには新たな犠牲者が発見される.

七日目に死ぬという呪いを掛けられた体で撮られたホラー映画.そのクランクアップ直後に出演者が死ぬという.「ゴーストケース」(感想)に続く心霊捜査版「科捜研の女」第二巻.霊子や怨霊,祟りの存在が捜査に利用されるとはいえ,心霊科学を絶対視せず,さりとて科学では見えないものもある.このへんの科学捜査と心霊科学捜査の境界が危ういバランスを取っている.ご都合主義に陥らず,最後の最後まで緊張感をはらんでいた.とても良いと思います.

鴨志田一 『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』 (電撃文庫)

青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)

青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない (電撃文庫)

無理やり嫌いなものを好きになんてなれない。好きになろうとすればそこに摩擦とか圧力とか、なんらかの無理が生じる。それが自分を苦しめるだけなら、前向きに諦めてみるのもひとつの手だ。それで救われるものがあることを、咲太は二年前に学んだ。かえでの件を通して知った。戦うだけがすべてじゃない。それでいいのだ。

科学部の同級生,双葉理央がどうやらふたりに増えたらしい.またしても咲太の前に現れた思春期症候群の症状である.咲太は増えたふたりのうち,ひとりの理央を家に匿い,もうひとりの理央と会話を重ねる.

ドッペルゲンガーのような量子テレポーテーションのような現象で,相反する欲求を持ったふたりに別れてしまった少女の恋と痛み.アニメ化も決まった「青春ブタ野郎」の三巻.ひとことで「増えた」,「分離した」とは言うけれど,お互いに存在を認識しながら,接触をまったくしようとしないまま話が進むのがなんというか不思議な感覚.単に問題を解決するのではなく,寄り添うことを大切にしている,ように見えた.力の抜けた言葉とまっすぐな行動がとても心地よい.派手なことは起こらないけれど,とても良い青春小説だと思います.

円居挽 『語り屋カタリの推理講戯』 (講談社タイガ)

語り屋カタリの推理講戯 (講談社タイガ)

語り屋カタリの推理講戯 (講談社タイガ)

基本的に殺人は犯人にとって不利だ。いくら周到な殺人計画を練り、鉄壁のアリバイを作ったところで、そんなものは決行時の状況次第で吹き飛ぶ。犯人も人間である以上、コントロールできないことの方が圧倒的に多い。糸くず一本、塵一つまで把握するなんてことは不可能なのだから。

故に現場のありとあらゆるものを時計と思え。日の下で影が時刻を指し示すように、あるいは流れ落ちた砂が時の経過を示すように、どんなものも見方を少し変えれば時計となる。

莫大な賞金を求め,少女ノゾムは六つの謎を解くデスゲームに参加した.同じく参加者の青年カタリは,初心者のノゾムに事件を推理するためのレクチャーを始める.

生き残るためには,六つの謎を解く必要がある.一章ごとにフーダニット,ハウダニット,ワイダニット,ウェアダニット,ウェンダニット,ワットダニットすべてを網羅する.まさに推理講戯と呼ぶに相応しい新本格ミステリ.アホみたいに大規模な舞台装置がいちいち面白く,ミステリのためのミステリという感じがする.「ダンガンロンパ」のようなものが好きなら,軽い気持ちで読んでみても楽しいのではないでしょうか.

小山恭平 『我が姫にささぐダーティープレイ』 (講談社ラノベ文庫)

「努力ってのは本質的に恥ずべきことなんだよ。だって努力ってほら、やりたくもないことをやってる時にしか使わない言葉でしょ? 超おもしろいマンガを読むのは娯楽、だけど読みたくもないマンガをなんとか読了しようとするのは努力。

やらされている、やらざるを得ないこと――それが努力。ほうら、弱いでしょ? やりたくもないことをやらされてるんだもん。環境が弱いねーその立場恥ずいねー。

今自分は努力していると感じるのなら、そんな立場を恥じるべきだし、そんな環境を嘆くべきだし、なにより――努力している自分を誇らずにはいられない、心の弱さを憎むべきだよ」

「王」たる存在を支えることを何よりの喜びとしていた高校生,鎧塚貝斗は,ある事件をきっかけに異世界に転生する.そこで彼は,公爵家の執事として一人娘であるラライ・アッフィールドに仕えることになる.類まれなる美貌を持ちながらも努力を嫌い,腐りきった性格のラライ.しかし彼女に何かを見出したカイトは,その野望のために尽力することを決意する.

努力を恥ずべきことと断言するクズなお嬢様を王にするためには何をすればいいのか.それはライバルの動向を調べ,弱みを握り,籠絡すること.知恵比べのようでもあり,一種のピカレスクロマンとも言えるかもしれない.まあ,明らかにご都合主義で動いているところがあるので,期待しすぎると肩透かしを喰らうかもしれない.出てくるキャラクターは基本的に性格が悪く,Mっ気が強い.なんというか話もキャラクターもやたらと癖が強い.そこに魅力を感じられるか否か.実に講談社BOX出身作家らしいな,と思ったことでした.

牧野圭佑 『月とライカと吸血姫3』 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫3 (ガガガ文庫)

月とライカと吸血姫3 (ガガガ文庫)

「あなたが歩いたあとに、歴史は作られるの」

「歴史……?」

「そう。これからの世の中は、知性を武器に闘うのよ。野蛮な暴力は、もう過去の手段。だから、あなたが先頭に立って、この国の歴史を変えてみて。……難しいかな?」

有人宇宙飛行を成功させたツィルニトラ共和国連邦に対して,アーナック連合王国は完全に遅れを取ることになった.劣勢のアーナックは,月面に人類を送るプロジェクトの決行を宣言し,民族融和と科学技術をアピールする広報計画を開始する.メンバーに抜擢された新人技術者のバートは,新血種族(ダンピール)のカイエが室長を勤める「Dルーム」に配属されることになる.

最初の宇宙飛行士を描いた東から,舞台は西へ移る.東西冷戦下での宇宙開発競争の隠された物語,第三巻.高い実力を持ちながら,その出自によって正当に評価されない新血種族のカイエ.ぽっと出の新人なのに,宇宙飛行士の弟であるという理由だけで選ばれた人間のバート.ふたりは吸血鬼と人間の融和のシンボルとなり宇宙進出を目指す.ざっくりと言うと吸血鬼版『Hidden Figures』(放題『ドリーム』)かな.話としては良いのだけど,けっこうなレベルで『Hidden Figures』に似ているのが気になった.あとがきに実際に参考にしたとは言っているし,単に黒人を吸血鬼に置き換えただけではないのはわかる.ただ,差別の描写やジャズ・フューネラルの作中での使い方など,もともとの題材が題材だけにかなり引っかかってしまった.ちょっと神経質な読み方かもしれないんだけど,すみません.