岬鷺宮 『三角の距離は限りないゼロ』 (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

――一生忘れられない表情が、一つ増えた。

人前で空気を読んでつい「偽りの自分」を演じてしまう高校生,矢野四季.彼は転校生のクールな少女,水瀬秋玻に恋をした.秋玻の中にはもうひとり,どこか抜けた優しい少女,春珂が存在していた.

僕が恋した少女は二重人格のひとりだった.僕と,131分毎に入れ替わる「彼女たち」のいびつな三角関係を描いたラブストーリー.記憶を共有しないタイプの二重人格を誠実に活かした物語になっていると思う.誠実という言い方も変かもしれないけど,小手先に終わってない感覚があるのよな.ふたりの関係と,「ふたり」の関係が絡み合う,不思議な三角関係の変化を丁寧に描いている.「セカイ系リアルタイム世代にして残党の作家」という自己紹介になるほどと思った次第.

良かったのが,二重人格の「ひとりの少女」,という扱いではなく,「魂」をふたつ持った「彼女たち」という扱いを徹底していること.どちらの人格も軽んじることなく,自然な姿勢で尊重しているのが読んでいてとても心地よい.青春小説としては非常にオーソドックスなものではあると思うのだけど,そういう意味で読んでいると自然と慈しみの気持ちが湧いてくる.良いものでした.

十文字青 『全滅なう』 (一迅社文庫)

全滅なう (一迅社文庫)

全滅なう (一迅社文庫)

夕鶴子さんと出会うまで、こんなことはなかった。あたりまえだ。

それまでぼくは、夕鶴子さんのことを知らなかったんだから。

恋というものを知らなかったんだから。

優等生として評判の高校生天川立己は,引きこもりの同級生大日向夕鶴子を登校させることで更に評価を上げようと画策する.クラスメートとの交流によって夕鶴子は徐々に打ち解けていくが,ふたつの変化が訪れる.ひとつは,夕鶴子が全滅因子を持っていること.もうひとつは,立己が夕鶴子に恋してしまったこと.

本当の初恋と彼女の秘密を描いた青春小説.不器用で自意識過剰な恋をとつとつと語る.とてももどかしく,カタルシスは訪れず,突如として終わりが訪れる.それがとても青春青春していると思う.第九シリーズを一冊も読んでいないので,読み落としたところもあるかもしれないけど,一冊完結のラブストーリーとして良かったと思います.

日下一郎 『世界最後の魔境 群馬県から来た少女GX』 (VG文庫)

世界最後の魔境 群馬県から来た少女GX (VG文庫)

世界最後の魔境 群馬県から来た少女GX (VG文庫)

「栃木の奴らだって、皆が争いを望んでいるわけじゃない。群馬に比べ劣ってるだけで、別に悪人ばかりじゃないんだ……」

栃木県の策略によって,ゆるキャラグランプリも受賞したゆるキャラ・ぐんまちゃんが栃木へとさらわれてしまった.栃木最奥に囚われたぐんまちゃんを救うには,栃木名所を守る黄金栃木闘士四天王を倒さなければならない.こうして栃木の名所を巡る観光の旅が始まった.

「群馬県から来た少女」の2年ぶりの続編.滑っているところしかないギャグと楽屋落ちで9割方埋まっており,ストーリーらしいストーリーは特にない.清々しい開き直りが見える.しかしそれでも「200ページ近」い「発狂コピペ話」とか自分で書いちゃうのはいかんのではないでしょうか.間違いなくオールタイムワースト級でしょう.

kanadai.hatenablog.jp

紅玉いづき 『悪魔の孤独と水銀糖の少女』 (電撃文庫)

悪魔の孤独と水銀糖の少女 (電撃文庫)

悪魔の孤独と水銀糖の少女 (電撃文庫)

あの人達の死が。正しかったなんて、絶対に言ってはやらない。間違いでもいい、間違いでもいい。

偽物でも、生きろ、生きろ、生きて、ひとつ、傷のひとつでもいい。

正義という、偉大な聖者に――復讐を。

黒い海を越え,呪われた島を訪れた,人形のような美しいシュガーリア.世界で最後の死霊術師(ネクロマンサー)である少女の望みは,仲間たちを殺した世界に復讐を遂げること.シュガーリアは島で悪魔に取り憑かれた大罪人,ヨクサルと出会う.

世界で最後の死霊術師(ネクロマンサー)となった少女の最後の復讐と恋と.すべてが終わってしまった,呪われた島を舞台にしたファンタジー.美しくて残酷で,儚い物語はまさに作者の十八番.さまざまなものを詰め込みながら,非常に美しく語られる物語はさすがだと思う.あまり語るべきことは浮かばないのだけれど,しみじみと良い作品でした.

氷桃甘雪 『六人の赤ずきんは今夜食べられる』 (ガガガ文庫)

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

六人の赤ずきんは今夜食べられる (ガガガ文庫)

「そんな狼などいるはずが――」

「いるんですよ。現に、ここに」

枯れ木を思わせる老人から強い言葉が飛び出した。

「名は――『ジェヴォーダンの獣』」

とある村に猟師が流れ着いた.村の者が言うには,ここの森には「赤ずきん」が住んでいて,他では手に入れられない秘薬を作ってくれるのだという.そして年に一度,赤い月の夜には巨大なオオカミの化け物が現れ,赤ずきんたちを喰い殺してしまうのだと.猟師はとある思いから六人の赤ずきんを救おうとする.

赤い月を背に迫りくるジェヴォーダンの獣,追い詰められる猟師と六人の赤ずきん.この中に裏切り者がいる.第12回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞.おとぎ話を下敷きにした,ダークな「パニックホラー×ナゾトキ」.人狼チックなパニックホラーとしてさらっと読める.体長数メートルの巨大なオオカミ,というスケールがパニックホラー的なリアリティを感じさせるものになっていると思う.手堅くまとまっていたと思います.