岬鷺宮 『三角の距離は限りないゼロ』 (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

三角の距離は限りないゼロ (電撃文庫)

――一生忘れられない表情が、一つ増えた。

人前で空気を読んでつい「偽りの自分」を演じてしまう高校生,矢野四季.彼は転校生のクールな少女,水瀬秋玻に恋をした.秋玻の中にはもうひとり,どこか抜けた優しい少女,春珂が存在していた.

僕が恋した少女は二重人格のひとりだった.僕と,131分毎に入れ替わる「彼女たち」のいびつな三角関係を描いたラブストーリー.記憶を共有しないタイプの二重人格を誠実に活かした物語になっていると思う.誠実という言い方も変かもしれないけど,小手先に終わってない感覚があるのよな.ふたりの関係と,「ふたり」の関係が絡み合う,不思議な三角関係の変化を丁寧に描いている.「セカイ系リアルタイム世代にして残党の作家」という自己紹介になるほどと思った次第.

良かったのが,二重人格の「ひとりの少女」,という扱いではなく,「魂」をふたつ持った「彼女たち」という扱いを徹底していること.どちらの人格も軽んじることなく,自然な姿勢で尊重しているのが読んでいてとても心地よい.青春小説としては非常にオーソドックスなものではあると思うのだけど,そういう意味で読んでいると自然と慈しみの気持ちが湧いてくる.良いものでした.