六塚光 『ブラッド・スパート 3 ―殉難者たちへの鎮魂歌―』 (幻狼ファンタジアノベルス)

ブラッド・スパート 3 ――殉難者たちへの鎮魂歌 (幻狼ファンタジアノベルス)

ブラッド・スパート 3 ――殉難者たちへの鎮魂歌 (幻狼ファンタジアノベルス)

「ここで、あんたが、『十二年前のことは後悔している。すまなかった』などと言い出したら、心が揺らいでしまうかもしれなかった――」

くわ、とダンテは目を剥いた。

その顔に浮かぶのは、十二年来の復讐を果たす機会がついに来た、という喜び。

「――だが、今の話を聞いて、安心した。あんたを八つ裂きにするのに、良心の痛みを一片たりと感じずに済みそうだ――」

前の戦争で暗躍したイステリア王国特殊部隊ブラッド・スパート.元隊員にして戦争の英雄だったトロイ・エヴァレットと,反乱軍の生き残りダンテ・ピンパーネルの前に最後の敵が現れる.

12年前の戦争で起こった真実と,復讐劇の終わり.戦争の影が漂う,ヴィクトリア朝ロンドンをベースにした世界での物語,完結編.あとがきで語られるこだわりの通り,雰囲気は十分.時折挟まれるとぼけたやりとりも洒落ている.バディものアクション小説として,そして復讐の物語として骨太だし,描くべきものを描ききったとの印象を受け取った.

柴田勝家 『ワールド・インシュランス 01』 (星海社FICTIONS)

ワールド・インシュランス 01 (星海社FICTIONS)

ワールド・インシュランス 01 (星海社FICTIONS)

今となっては、保険業が担うものはありとあらゆる人間の営為だ。人が生きていく中で、あらゆる不慮の事態が起こりうる。それら全てに保険があり、顔も知らない無数の他者が少しずつ補償を行い、誰かの不運を帳消しにしてくれる。

それこそ保険のシステム。

カイン・ヴァレンタインはイギリス最大の保険市場,ロイズで保険引受人(アンダーライター)を勤める日本人.彼は行きがかりで出会った少女,ベティから,自らの瞳に掛けられた一億ドルの保険の再保険を請け負うことになる.

一億ドルの「サリエルの瞳」に隠された秘密とは.イギリスを中心に描かれる,日本人の保険調査員とお嬢様のアクション小説.テーマ的に「MASTERキートン」と「カリオストロの城」を足したような雰囲気がある.明快で痛快なアクションと,いくらかホラとトンデモが入ったSFガジェットは抜群に相性がいいなあ.良質な二時間ドラマみたいな,テーマと内容がきれいに噛み合ったエンターテイメント小説でした.

宮野美嘉 『忘却のアイズオルガン』 (ガガガ文庫)

忘却のアイズオルガン (ガガガ文庫)

忘却のアイズオルガン (ガガガ文庫)

「ああ、お前の想像は当たってるよ。俺は魔術師だ。これは俺の操る屍人形(アイズオルガン)、名前はアリア」

アリアは棺をまたぎ、とんと地面に足を下ろした。盗賊たちは怯んだように一歩下がった。

「さあ、アリア。ご主人様の獲物を狩っておいで」

悪魔喰いの魔術師,ダヤンは,己が殺した屍人形(アイズオルガン)のアリアと旅を続けていた.旅の目的は六百六十六体の悪魔を喰らい,アリアの命と失った記憶を取り戻すこと.

魔術師と悪魔と屍人形が跋扈する世界,すれ違う思いを抱えながら旅を続けるふたりのダークファンタジー.個人的な偏見だけど,ふたり(ともう一組)の関係の描き方が少女小説出身っぽい.要素が悪い意味でとっ散らかっていて,なかなか中身が頭に入ってこない感じはあった.

紫炎 『まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる4』 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる 4 (このライトノベルがすごい!文庫)

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる 4 (このライトノベルがすごい!文庫)

如何に母とはいえ、ユウコ王女は四十近くしてなお美しい。まるで二十代のお姉さんのような美人の母の豊満なるバストに顔を圧迫されれば、いくら息子といえども顔を赤くせざるを得なかった。おっぱいを吸っていた頃ならばいざ知らず、思春期の少年に巨大なおっぱいは毒であったのだ。

かつてゲーム仲間だったユウコと再会したカザネたちは,ユウコの息子であるジーク王子の鍛錬を依頼される.その依頼とは,ダンジョンの奥に住まう黒岩竜ジーヴェの討伐だった.

ゲーム風異世界への転生ファンタジー四巻.命の扱いが雑なのは相変わらずだし,ストーリーに抑揚も緊張感もない.というか,あらゆるセンスがいちいちが古いんだよな.読むのに時間はかからないけどストレスが溜まった.

新八角 『ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?②』 (電撃文庫)

ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?(2) (電撃文庫)

ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?(2) (電撃文庫)

「もう、ヒトの時代なんて終わったんだよ」

「……終わった……?」

「人類史なんていう狂った祭りみたいな時代は終わったんだ。ヒトは自分で穴を掘って、みんなで静かに墓に入った。地上に残っているのは、終わった祭りの残り火を見て、楽しいと思える馬鹿だけだ。そいつらのことなんか、気にしなくていい」

ある夏の暑い夜.世界中の空を覆った大規模オーロラの影響で,東京にも大規模な電磁災害が発生する.アラカワにある食堂,《伽藍堂》にはなぜかスライムが大量発生.

語られるのは200年前の記憶と,2年前の思い出.ポストアポカリプス都市TOKYOを舞台にした百合&飯SFの第二巻.《聖薬》(バングー)を使った(ジーヴァ)の融合の儀式や,ペヨーテを使って人間と機械をつなぐ神経ネットワークといったサイバーパンク味の強い仕掛けからはじまり,百合夫婦のなれそめでしめくくる.テックと宗教にドラッグが合わさって出てくるとサイバーパンク風味が一気に増すなあ.

東京のすみっこという決して広くない舞台に,アダチのジャングルに住むエルフあり,各勢力の縄張り争いあり,白鯨も登場とかなりの密度が詰め込まれている.しかもそのほとんどが伏線として物語に効いている,という.更には一巻にもまして濃厚な,それでいてやりすぎにならない程度の百合成分.てんこ盛りなのにリーダビリティも高いし,本当にきれいにまとまるのが楽しくてたまらない.良いものでした.ぜひとも一巻とあわせて読んでほしい.



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