大澤めぐみ 『彼女は死んでも治らない』 (光文社文庫)

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

彼女は死んでも治らない (光文社文庫)

へ~こりゃすっごいリアルな死体だな~クオリティ高いな~まるで本当に死んでいるみたいだぁ~って思ってよくよく見てみたらマジにリアルに死んでたからめちゃくちゃびっくりした。そりゃリアルなはずだわ、リアルに死体なんだもん。

高校生の神野羊子は,入学早々,幼馴染で親友の蓮見沙紀が死体になっているのを発見する.頭のない逆さ吊りの,大好きな沙紀を救うため,羊子は幼馴染で助手役の昇とともに推理を開始する.

密室に物理トリック.ありとあらゆる手段で何度も殺される大好きな女の子を何度でも生き返らせるため,自称顔面偏差値48の少女は推理する.学園ミステリ? のようなもの.あらすじが言うには「超絶コージーミステリー」.物知らずなのでコージーミステリという言葉を初めて知ったのだけど,しかしこれはコージーミステリの典型だと思っていいものかしら.

やたらと濃いキャラクターたちに,思いも寄らない方向へと進む事件とその最終解決.そこまでの展開からまた想像できない綺麗なラスト.みっちり詰まった作者独特の文体から語られる,元気いっぱいで不穏な空気と,徐々に強くなっていく違和感はさすがのもの.作者の既刊に比べても,いちばんエンターテインメント寄りの作品になっているかもしれない.楽しゅうございました.

三月みどり 『ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの』 (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの (MF文庫J)

ラブコメの神様なのに俺のラブコメを邪魔するの?2 す、すみましぇんですの (MF文庫J)

「星羅、これからも俺の告白に協力してくれないか?」

ラブコメの神様である月宮アテナに邪魔され続け,優吾は相変わらず天真へ告白できずにいた.五月もそろそろ終わりのある日,学校に三人目のラブコメの神様がいることが明らかになる.いかにもエリートっぽいラブコメの神様,星羅ルナに,優吾は告白の手助けをしてもらうことになる.

ラブコメの神様に惚れられた高校生のドタバタブコメ第二巻,ポンコツすぎるラブコメの神様登場の巻.三角四角関係のもつれからのカタルシスより,最初からストレスのない話作りに舵を振り切っている.毒にも薬にもならない,いかにもな現代的ラブコメと思っているけど,お気楽に読めて個人的には悪くない.まあ,改めてコメントすることも特に思いつかないんだけどね.



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周藤蓮 『吸血鬼に天国はない』 (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

吸血鬼に天国はない (電撃文庫)

大戦と禁酒法。その二つが、世界を壊してしまった。

そしてその壊れてしまった時代に、シーモアはいた。

それだけの話だ。

大戦と禁酒法が旧来の道徳を破壊した時代,五つのマフィアが抗争を続ける都市.頼まれれば何でも運ぶ非合法の運び屋,シーモア・ロードにある日持ち込まれたのは,ひとりの美しい少女,ルーミー・スパイク.彼女は正真正銘の吸血鬼だった.

今ではない時代で,社会的に自立しつつも何かが欠落した大人の男と,社会の外側にいる少女が出会う.あらすじを見てデビュー作の『賭博師は祈らない』とそう変わらないのかなと思っていたら,後半でやられた.これほどのあらすじ詐欺は見たことがない.

旧い価値観が破壊され,すべてが平等に無価値になった時代.煙草の煙が漂う街の裏の顔.油とペンキにまみれたガレージのにおい.目の前にありながら壊れている家族の関係.そして成り行きでいっしょに生活することになったふたりの距離の変化.細かい機微や情景といった細やかな描写力はさらに磨かれている.テーマに関しては荒削りなところもあると思うのだけど,書きたいものを書くだけでなく,さらなるものを目指そうという意欲が垣間見えるというか.期待を大きく上回る傑作でした.



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ジャスパー・フォード/桐谷知未訳 『雪降る夏空にきみと眠る』 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)

冬眠する九十九・九九パーセントの人々にとって、冬とは抽象的な概念だ。眠りに就いて、目覚める。願わくは、十六週間後に。

長い冬を乗り越えるため,人類が冬眠する道を選んだ世界.冬季取締官になったチャーリーは,ナイトウォーカーとなったティフェン夫人を〈セクター12〉に送り届ける任務につく.

長く過酷な冬のウェールズ.冬季取締局とハイバーテック・インダストリー社が管理する世界では,多くの人々が各地の睡眠塔(ドーミトリウム)で眠り,ブリザードの舞う屋外では春蠢(スプリングライズ)を迎えられなかったナイトウォーカー,冬季不眠症患者(ウィンソムニアック)冬牧民(ウォマド)盗賊(ヴィラン),そして冬の魔物(ウィンターフォルク)が暗躍していた.

「冬」に覆われた世界を描く歴史改変SF.冬を頭につけた造語の数々と,荒れ果てつつも独自の文明を(千年以上のオーダーで)築き上げた世界にどことなく「Fallout」みを感じる.政治,社会,産業,風習,文化,歴史とあらゆる面から描かれる冬の世界は,読み進めるごとに驚くような新事実が少しずつ,確実に出てくるのがすごい.密度はかなりのものなのだけど,情報の出し方が恐ろしくうまい.しっぽまであんこぎっしり,最後まで飽きない.改変世界ものが好きなら,あるいは表紙イラストに惹かれるところがあれば読んでみて損はないはず.



雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 上 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)

雪降る夏空にきみと眠る 下 (竹書房文庫)

斜線堂有紀 『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』 (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

「お前は自分が同じ重さの金塊より価値のある人間だと思うか?」

突然投げかけられた質問に、僕は再度凍り付く。最後に量った時は確か六十キロくらいだったはずだ。六十キロの金がどのくらいの値がつくのか分からないけれど、これだけは言える。

僕は六十キロの金塊よりはずっと価値の無い人間だ。

身体が金塊に変化する病気,多発性金化繊維異形成症.通称「金塊病」の発症者を収容した昴台サナトリウムの近くで,中学生の日向は,患者の女子大生,弥子と出会う.彼女は日向にチェッカーの勝負を持ちかける.日向が一度でも勝てば,弥子は死後に三億円の価値が出る「自分」を相続させるという.

家庭に不和を抱えた少年と,死に至る病を抱えた大学生.終わりの日が確実に近づくなかで,日々チェッカーの勝負を繰り返しながら迎える最後の夏の物語.人間の価値はどこにあるのか,『私が大好きな小説家を殺すまで』よりもさらにプリミティブというか,純粋な問いかけが柱になっている.限界が近い田舎の,暴力的で乾いた描写と,「三億円」という即物的な数字がもたらす変化が心に来る.辛い結末を予感させながらも,ふたりの行く末から目を離せなくなる.ギラギラとした暗い輝きを放つ,最高の青春小説でした.



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