斜線堂有紀 『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』 (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

「お前は自分が同じ重さの金塊より価値のある人間だと思うか?」

突然投げかけられた質問に、僕は再度凍り付く。最後に量った時は確か六十キロくらいだったはずだ。六十キロの金がどのくらいの値がつくのか分からないけれど、これだけは言える。

僕は六十キロの金塊よりはずっと価値の無い人間だ。

身体が金塊に変化する病気,多発性金化繊維異形成症.通称「金塊病」の発症者を収容した昴台サナトリウムの近くで,中学生の日向は,患者の女子大生,弥子と出会う.彼女は日向にチェッカーの勝負を持ちかける.日向が一度でも勝てば,弥子は死後に三億円の価値が出る「自分」を相続させるという.

家庭に不和を抱えた少年と,死に至る病を抱えた大学生.終わりの日が確実に近づくなかで,日々チェッカーの勝負を繰り返しながら迎える最後の夏の物語.人間の価値はどこにあるのか,『私が大好きな小説家を殺すまで』よりもさらにプリミティブというか,純粋な問いかけが柱になっている.限界が近い田舎の,暴力的で乾いた描写と,「三億円」という即物的な数字がもたらす変化が心に来る.辛い結末を予感させながらも,ふたりの行く末から目を離せなくなる.ギラギラとした暗い輝きを放つ,最高の青春小説でした.



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