深雪深雪 『遥かなる月と僕たち人類のダイアログ』 (講談社ラノベ文庫)

「もう一度訊く。炭風はその人を――『どうやって』殺したんだ?」

ある放課後の帰り道。僕はクラスメイトの炭風凌香に声をかけられる。援助交際の噂を立てられていた彼女は、僕にその疑いを晴らすために協力してほしいという。ところが、教室で声をかけた炭風はその噂を肯定する。

秘密を抱えた彼女は月に呪われていた。タイトルを見てSFかと思ったら、同級生の少女と、人格を持った「月」のふたり(?)が高校生の少年がひたすら対話するラブストーリーだった。「青春ブタ野郎」を思い起こさせる導入には期待したのだけど、良かったのはそこまで。その後はとりとめのないオタクネタを挟みつつ、メリハリのない会話が続く。「月」の正体も驚くような何かがあるわけではなく、ページ数以上に長く感じられた。

宇佐楢春 『忘れえぬ魔女の物語』 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)

「どうして泣いているの?」

彼女とわたしは別の生き物なんだ。人間は忘れる生き物で、忘れられないわたしは別の生き物。共通言語はない。使ってる言葉こそ同じだが、違う文法で機能している。

「ごめんね」

首を振るしかなかった。

高一の春、高校の入学式は3回繰り返された。わたし、相沢綾香がそのすべてで出会うことになる、生まれて初めての友達、稲葉未散は、将来魔法使いになるのだと言った。

第12回GA文庫大賞金賞受賞作。繰り返される「今日」、そのうちの一日だけが「採用」されて「昨日」になる。すべての記憶を持ったまま、たったひとりでその時間を生きてきた「魔女」は、自称「魔法使い」の少女と友達になる。わかりやすく言えばセカイ系百合SFというのかな。まるで絵を描くように繰り返される時間とすれ違うふたりの少女、といういかにもそれらしいテーマではあるのだけど、75年近くの人生を送ってきた15歳の魔女の苦悩を泥臭く泥臭く描いているのがそれ以上に印象に残る。

清水苺 『ありえない青と、終わらない春』 (講談社ラノベ文庫)

これは、彼……石崎海にとっては、初めての高校一年生の物語。

そして、彼女……前田きららにとっては、初めてかもしれない、二度目の春の、物語。

4月。高校生の石崎海は前田きららに出会う。かつては選べなかった運命を選ぶため、タイムリープで二度目の高校生になったというきらら。恋を知ることのないまま大人になったというきららのため、海は「恋」とは何なのか、一緒に探そうと提案する。

決められた運命をやり直すため、わたしはこの時間に戻ってきた。枷と柵に縛られた、二度目の青春と初めての恋の物語。古い少女漫画のようなところもあり、苦い……というより、妙に生々しいところもある。社会的・経済的カーストはスクールカーストより強い、みたいな。それゆえに読み口にもいろいろなものが混ざる。個人的にはすっきりと消化できない気持ちが残ったのだけど、刺さるひとには強く刺さりそうな初恋の物語、だと思いました。

伊崎喬助 『董白伝 ~魔王令嬢から始める三国志~3』 (ガガガ文庫)

「『幸せは金で買えないが不幸は金で追い払える』……そんな言葉を聞いたことがあります」

「ふむ。初耳だが含蓄のありそうな言葉だな。誰の言葉だ? 莊子か?」

「ヒッチコックの映画です」

「ひっちこ……?」

長安への遷都を実行した董白。乱世から己の身を守るための次のミッションは、長安の経済を立て直すこと。屯田制と貿易を軌道に乗せるべく、多方面に奮闘する董白ちゃんは、捕えた政治犯の中に荀攸を見つけ、なんとか軍師に引き込めないかと説得を試みる。

飢えと貧困に苦しむ長安の経済のために奮闘したり、献帝や益州、涼州からの使者と腹芸を演じたりと、相変わらず忙しい董白ちゃんであった。董白と並ぶこの巻のもうひとりの主人公が、二巻で登場した趙雲。将軍になることをなんとなく志し、それがあっさり叶うもなんか想像してたのと違う。そんな彼の前に、甘寧という本物の天才が現れ、否応なしに戦うことになる、という。良い意味での王道を征く、熱い展開を見せてくれる。並行して描かれるふたりの主人公の緊張感ある描写、そしてついに姿を見せた奸絶。これこそがエンターテイメントだ! と思うのです。

小林一星 『シュレディンガーの猫探し2』 (ガガガ文庫)

シュレディンガーの猫探し (2) (ガガガ文庫)

シュレディンガーの猫探し (2) (ガガガ文庫)

「は? 僕が捻くれ者だと仰るんですか? やだなあ、探偵嫌いの僕は捻くれ者とは程遠いでしょう。捻くれ者とは探偵で、探偵こそが捻くれ者です。実直で素直で純粋な人間が、人を疑い粗を探し揚げ足を取り時には罠にはめてまで『推理』という名の舌戦を制す論破マンになれるわけがないんですから。つまり探偵と対極にいる僕こそが実直で純粋だって話です」

「そういうとこだよ。君は」

東高の校庭に光が運んできた「明るい暗号事件」。そこには「東高五十面相」による犯行予告が記されていた。それは呪い。「二十面相」こと、死んだ姉が八年前の「七夕祭」に起こした事件を模倣した予告だった。

五つの「虹」が盗まれた八年前の事件を模倣して、「十二星座」を盗むと予告した「東高五十面相」。事件の迷宮入りを目指す「迷宮落としの魔女」とその助手令和は、それを阻止せんとする平成最後の高校生探偵と、幼馴染みの安楽椅子探偵と対峙する。一巻からの謎だった「やよいトリップ」に決着がつく。ぼんやりしたアンチミステリの印象があった一巻の物語を引き継ぎつつも、とても綺麗に過去との決着がつく。日常の謎とケレン味とちょっとの切なさが相まって、非常に高いレベルで完成していると感じた。物語としてはむしろここからが本番なのかな。楽しみにしております。



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