紙城境介 『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?3』 (MF文庫J)

意味がわからない――何もかもが唐突。

いきなり世界が切り替わってしまったかのようだ。

まるで、乱丁でめちゃくちゃになってしまった小説のような――

――まるで、悪い夢のような。

精霊術学院学院長にして永世霊王、トゥーラ・クリーズが称号の返還を発表した。一ヶ月後の霊王戦では、三十年ぶりに新たな霊王が誕生することになる。祭の裏では、新霊王の地位をめぐり、王権派と民主派の代理戦争が始まろうとしていた。

「……ジャック君……」

エルヴィスが、震え声で呟いた。

「ぼくたちは、今……何を見ているんだ……?」

――ああ。

考えが甘かった。

想像が浅かった。

しかし、その前提はすべてひっくり返される。二巻の時点で「これはファンタジー版「喧嘩稼業」だな?」という感想だったけど、もうこれは完全に新本格やんけ、とか、竜騎士07のやり口いや『ベルセルク』の触やんけ、とかいろいろな思いが頭の中に巡った。今まで見ていたのはひっくり返すためのちゃぶ台の設営だったのか、とか、デビュー作『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』の意趣返しでもあるのかな、とか、言葉にまとまらない感想が浮かんでは消えていった。ラブストーリーもいいけどこういうのを待っていたのですよ。ちょう楽しかったです。



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両生類かえる 『海鳥東月の『でたらめ』な事情2』 (MF文庫J)

「100本の内、どれが『本体』というわけでも、どれが『本体でない』というわけでもありません。あくまで鉛筆が100本集合した存在、それが私なのです。

ですからのこの内の1本や2本が折れたり、燃やされたりしたところで、私自身にはなんのダメージもありません……つまり私という存在は、鉛筆というよりも、『100本の鉛筆という概念そのもの』と表した方が、より正確に近いのかもしれませんね」

ゴールデンウィーク真ん中の5月3日。バイト終わりの海鳥東月に非通知の電話がかかってくる。電話の主は、東月がマンションの裏に土葬した100本の鉛筆だと言う。

素揚げされた末に土葬された100本の鉛筆が自我を持ち、埋めた主に語りかけてくる。それは、一年前に出会ったサラダ油の屋台引きの願いが起こした奇跡だった。嘘を吐けない少女の周りに集まる《嘘憑き》たちの「でたらめ」な嘘殺し、第二巻。普通に奇想と呼んでいい導入だと思う。一巻も導入はともかく、尻すぼみ感が強かったのだけど、話の広げ方たたみ方とも格段に良くなっていた。アイデアややりたいことにアウトプットが追いついた印象というのかな。小説の焦点を絞った結果、メインヒロイン(?)の出番が犠牲になっていたのはまあ、そういうものだろう。今後がぐっと楽しみになりました。



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喜多川信 『ソレオレノ』 (ガガガ文庫)

「なあ、信じられるか?」

リョウはナツメヤシの葉の上に腰を下ろし、いつものように友人に話しかけた。

「俺が大陸一の冒険者で、虫使いで、王様にまで頼られていたなんて……集めた古代遺物のコレクションが数え切れなかったなんて……」

かつて大陸一の冒険者と呼ばれていたリョウ。信頼していた王エンと仲間たちに裏切られ、岩窟牢に囚われてから長い時間が経っていた。脱獄の手段も潰え、諦めかけたその時、王の娘を名乗る少女センが、古代遺物の虫樹を駆ってリョウの目の前に現れる。

牢に囚えられすっかりおっさんになった冒険者は、かつての仲間への復讐と、世界を救うための旅に出る。独自の宗教観を持った渇ききった世界、古代遺物の巨大虫型マシン、助けを求めて現れた裏切り者の娘、かなり独特なネーミングセンス。ガジェットを散りばめた、ロボットアニメのようなストーリーラインは悪くない。個人的には今ひとつ乗り切れなかったのだけど、ロボットアニメのような小説を求める向きにはいかがでしょう。

立川浦々 『公務員、中田忍の悪徳3』 (ガガガ文庫)

「話は戻るんですが、結局アリエルは『流れで“異世界エルフ”って呼んでるけど、実はよく分からない謎の異世界生物らしき何か』ってことでいいんですよね?」

「そうなるな。必要なら、今からでも呼び方を変えるか」

「一応確認しますね。なんて?」

「UMA」

「は?」

街に連続発生した謎の紋様と、アリエルが書いた奇妙な“魔法陣”。そこに共通する意味を見出した忍は、もし新たな異世界エルフが現れたとしても、一切関わりを持たないと宣言する。時は年の瀬、12月30日。地域のパトロールに参加した忍は、二人目の異世界エルフに遭遇する。

異世界エルフとのコミュニケーション方法を引き続き探る日々、そして二人目の異世界エルフとの邂逅。なるほど、SFとファンタジーのどちらにも寄せないファーストコンタクトは子育てに似るということか。バーバルコミュニケーションさえできれば問題が解決するとは限らない、という説明には理屈以上の説得力を感じる。

正義と悪徳、信義と倫理、現実と(本当にあるかもあやふやな)異世界といったテーマを、理屈をこね回した考察と、地に足の着いた解釈の両極端で語り、考える。このエルフは「本物」なのか? そもそも「本物のエルフ」って何? みたいな話も楽しい。そこから忍のパーソナリティーを掘り出してゆく手付きも見事。引き続きたいへん良かったです。作品全体のテーマではあるけど、「弱者」を描く中盤がかなりきっついので注意をしてほしい。

かつび圭尚 『問二、永遠の愛を証明せよ。思い出補正はないものとする。』 (MF文庫J)

嘘は吐かない。誤魔化しもしない。彼女の気持ちに、自分の気持ちに、僕は真剣に向き合わなければならないから。それがどれだけ、都合の悪い、汚い感情だとしても。

恋愛を巡るゲーム、「コクハクカルテット」。その結果、世界は書き換えられた。六人の参加者たちの記憶は上書きされたが、しかし、その恋心はリセットされなかった。恋の天使を名乗るクピドは、六人を集めて記憶を賭けた新たなゲーム「リメンバーラリー」を始めようとする。文化祭当日、ゲームの始まりの日がやってきた。

ここには過程がなく結果だけがある。過程のない結果に意味はないと考えて生きてきた。失われた記憶を取り戻す、あるいは奪い合うゲームの中で、そこにどのような意味を見出すことはできるか。ラブコメ風デスゲームに乗せて描くのは、いかにポリシーを貫いて、あるいは妥協して生きるかという。実に面倒くさくて、潔癖で青臭い、生き様の物語。なるほど、読み終わってみると「永遠の愛」を語るにはうってつけの舞台だったのだと思う。広いおすすめはしにくいけど自分には刺さるところが多かった。良かったです。