日日日 『狂乱家族日記 壱さつめ』 (ファミ通文庫)

ちーちゃんは悠久の向こう』の解説で久美沙織がこの作品を評して曰く,「文庫何冊もかかる短編連作シリーズの「最初と最後近くとサビをところどころ」書いてあるもののようにみえる」「が、作者の力はあきらかに図抜けている」.私の感想もだいたいそんな感じ.
家族を作れ言われてみなすんなり受け入れること,そして具体的な描写もないままいつの間にやら家族の結束が強固極まりないものになっていること.すごい駆け足で話が進んでいる感は否めない.
でも,そんな違和感を差し引いてもすごく面白かった.「疑似家族もの」*1としてはオーソドックスかもしれない話なんだけど,人外ばかりの家族はみなそれぞれキャラが立っていて強力な個性がある.文体もこれまた個性的で楽しい.末っ子*2を救うべく協力する家族の姿には素直にあったかい気持ちにさせられた.とても良い.
しかしそう考えると,家族が結束する過程が省略されているのがやっぱりすごく惜しく感じられる.それが丁寧に描かれていたなら,たぶんさらに何倍も面白い作品が出来上がっていたはず.続編で多少はフォローされるかもしれないけど,最初だからこそ「家族の生まれる過程」を大事にして欲しかった.面白いと感じたぶん,すごくすごく,惜しい.

狂乱家族日記壱さつめ (ファミ通文庫)

狂乱家族日記壱さつめ (ファミ通文庫)

*1:あるいは「急造家族もの」

*2:厳密には違うが