あきさかあさひ 『終わる世界、終わらない夏休み 〜桜井深優の終末〜』 (ファミ通文庫)

個人的には受け入れ難かった.結末は納得できる(予想範囲内だが)ものだったのだけど,一点,その結末へ至るまでのプロセスがよろしくない.具体的に言うとグラサン男に代表される物語中における人々の行動が気に食わない.
生きる意志を放棄していた人々が意志を取り戻し,善意を発揮して最終的に救われる,っつーのは王道ではある.ただ,「現実は非情だ」とあれだけ上巻で強調して描いていた筈の物語が下巻でこういった道を辿ることにいまいち納得がいかない.その意志や善意を人々が手に入れるまでのプロセスに説得力があれば骨太な物語になったと思うのだけど,これは弱いとしか言えない.
それでも,特に上巻で「感情移入しようが無い」と思っていた主人公や他のキャラクターの成長が活き活きとよく描けていたのはすごく良かった.この世界観で無ければ出来ないキャラクター描写だったと思う.それだけに,非情に徹するか,人情を信じるか,物語世界への作者の姿勢が最初から最後まで一貫していないように見えるのが歯痒かった.