王城夕紀 『マレ・サカチのたったひとつの贈物』 (中央公論新社)

マレ・サカチのたったひとつの贈物

マレ・サカチのたったひとつの贈物

「出会いは神様の意志。でも、再会は人間の意志」

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どんな辺境に跳び落ちても、世界が変わり続けているのが分かった。
それほど世界はひとつになっているということであり、それほど人々はポタコンとネットで繋がっているということだった。
貧困層は増え続けていた。そうでない人々は祝祭に明け暮れていた。そして何より、人々は移動し続けていた。
眩しい、と彼女は感じた。
なんて眩しい嵐だろう、と思いながら、また彼女は跳んだ。

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「量子病」に冒された坂地稀.時間も場所も選べぬまま,世界中を跳び続ける運命を負った彼女は様々なひとと出会い,別れ,その間にも世界は大きく変化していく.人生を積み重ねることができない彼女が,唯一残したものとはなんだったのか.
二度に渡るワールドダウン(=世界同時経済破綻).崩壊する資本主義を前に,戦争ではなく祝祭での経済活性化を目論む「祝祭資本主義」.祝祭資本主義に反対する祝祭テロ.混沌の中で生み出された「永遠の楽土」.進行形で変わる世界を意図せず跳躍し続けるマレ・サカチは何を見て,人々はマレ・サカチに何を見るのか.いかにも現代SF的な世界に比べると,SF的な仕掛けがやや古いような,と思いながら読んでいったら,ラストでガツンとやられた.キーワードの「出会い」と「別れ」をこう使うのか! という.ややこしくも美しい世界の物語.デビュー作の『天盆』(感想)とはまたぜんぜん違う読み口だけど,どこか通じるところもあるのかな.良いものでした.