熊谷雅人 『ネクラ少女は黒魔法で恋をする5』 (MF文庫J)

ネクラ少女は黒魔法で恋をする5(MF文庫J)

ネクラ少女は黒魔法で恋をする5(MF文庫J)

シリーズ完結.今回は正統派青春ものの側面が強く,友情や恋愛模様にベタだなあと思いながらニヤリとする場面も.空口姉妹の気の抜けたやりとりは1巻から変わらずで和んだ.実はここがシリーズのいちばんの味噌だったのかもかもな.社会性もコミュニティも持っていない少女が,家庭では安心して素の自分を出すことが出来ていたのでした.妹に相対するのと同様の気の置けない仲間を得ることにより,少女は社会を手にしたのでした.みたいな.まとまってないけど,なんかそう思ったのさ.
その一方,悪魔vs.天使の戦いは浮き気味だったかなあ.緊張感がいまいち感じられなかった.「過去」を見せ付ける手法は良かったのだけど,切迫感は1巻の比ではなかったのもなあ.唐突に明かされるあのひとの正体に,空気化するあのひとなど,色んなものが駆け足気味と,やや微妙な面が目立った.
シリーズ全体を通して.ネクラ少女の成長がシリーズの核のひとつにあったはずだろうに,成長しネクラから脱却するに従ってだんだん物語自体から個性が抜けていくという自家中毒に陥ってたのが惜しかったかな,と.安定飛行はしていたんだけど,1巻のネクラ少女のインパクトが個人的に強烈だった分,期待が強かった分だけその後は物足りなさが残った.といっても,ちょっとした毒テキストの挟み方など,本筋以外にもセンスを感じる部分は多々あったし,楽しませてもらったのもまた事実.次回作に期待してます.