藤野千夜 『少女怪談』 (文藝春秋)

少女怪談

少女怪談

「少女」の「怪談」.といっても文字通りの怪談ではなく,少女性の持つ残酷さとかそういうのを称して「怪談」と言っているのだと思う.少女のほんのちょっとした成長・変化をだるく描いた,いかにも「一般文芸」といった軽めの短編集.ラノベオタを釣る気満々の表紙にクマーされた身としては少し食い足りなかった.

「ペティの行方」

女子中学生のクラス内権力構造と社会的立場の溝.可愛くて背も高くて教室内カーストの上位にいた少女も,学校の外ではただの中学生.それが学校内でも人間関係がこじれ失われつつあるとあればそれはかなりの恐怖の種であることは間違いない.王侯貴族なんかいない現代社会において,一人の少女が出来ることの一例を切り取ったサンプルみたいな話.

「青いスクーター」

昔いじめたことのある少女の生き霊に憑かれた男の子.この本では唯一少年が主人公になっている話.これは邪気眼の喪失の話……ということになるのかな.生き霊には望んでとり憑かれたわけではなく,周囲に話すこともなく,今にでも消えて欲しいと行動をするものの,それが消えたことで手に入れられたものはただの男子高校生である自分.邪気眼(的な何か)を失ったただの少年と,何かは分からないけど何かを手に入れた少女では,勝ち負けは推して知るべし.一過性の出来事とは分かりつつ,切ないラスト.

「アキちゃんの傘」

従姉の傘を手にすることで少し周りが見えるようになった女の子の話.感想を書きながら思ったが実はこれエロい話なのではないか? 傘を格好いいものと思って勝手に持ち出すこと,それを周囲にからかわれること,「バチが当たっ」て悔しい思いをして帰宅すること.その経験で少し視線が上がったこと.どこにでもありそうな一種の通過儀礼を一本の傘で畳めてしまう技術は良かった.安直な読み方だけど,まあ.

「ミミカの不満」

恋人が出来たママのもとに帰るのが小学三年生のミミカには最近面白くない.今まさに母離れをし,社会を広げようとする女の子の,最初の一歩の話.ママと二人だけの家に男がやってくることをきっかけに,ミミカの前に新しい社会が広がっていく.この手の話としてはそれぞれの人間関係の変化が非常に穏当に描かれているのが珍しい,かも.