針谷卓史 『花散里』 (講談社BOX)

花散里 (講談社BOX)

花散里 (講談社BOX)

半年付き合った彼女に「面白くない人」と言われフラれた坂寄(教養学部大学生・文芸同好会所属).その経験から「男女交際に於いて面白さは必須」と考えた坂寄はある日パーティで能楽研究会所属の津村真衣に出会い惹かれることになる.どうすれば彼女と付き合うことが出来るのか,試行錯誤と苦悩の日々.
カバーから普通(?)の恋愛小説かと思ったら強烈な非モテ小説でした.森見登美彦滝本竜彦を足して二で割った感じ,というのが私の受けた印象.独特の癖を持ちながら軽快で読みやすいテキストはかなりこなれている.挟まれるいくつかのエピソードも,大学での生活の様子も,脇を固めるキャラクターたちも理想の彼女はシータと公言するムスカ荻野にフラれた彼女の様子をメルマガにして送ってくる女友達の相場さんなど,どれもいちいち癖があって面白い.

社会人め……! 社会人め……! ちょっと経済的に自立しているからといって威張りやがって! スーツを着ているだけでそんなに偉いのか? 「スーツは男の戦闘服」とでも言いたいのか?(後略)

花散里 (講談社BOX) - はてなキーワード

「だってさ、実際に付き合うと面倒臭そうじゃないか。金もかかるだろうし」と院生の先輩が横で呟いていたが、実際、部員の約三割近くが「くそう、何で女性が口もきいてくれねえんだ」「ヤリてえ、ヤリてえ!」という段階を超えて、「現実世界の異性は不潔だ」という彼岸に達していた。

花散里 (講談社BOX) - はてなキーワード

前者はともかく後者は分からないでもないと思えてしまう自分がもうね ('A`)
約三割には含まれない坂寄はルサンチマンに振り回されつつも,気紛れで少し変わった彼女の「面白い人」目指して奮闘する.滑稽でもあり,それでいて充実しているようでもあり,なんとなく楽しそうな生活ではある.と思ったらクライマックスで大どんでん返しが待っていた.簡単に言うとうわああああうわぁぁあぁあぁ(AAry と思った.「女性」の実体と,そしてそれに振り回される男の純情の空転,なんとも脱力させてくれる.たぶん再読すればこの男どもと女どものやりとりは更に笑えるものになるはず.乾いた笑いに.そして女というものはよく分からない,恐ろしいものよ,そもそも「女」って何よ? という結論に達することになるはず.
とは言いながら,ストーリーは(『超人計画』以前の)滝本竜彦よりはるかに完成されており,エンターテイメント色も強い.感情移入の度合いが変わってくるかもしれないけどあんがい広い層におすすめできると思う.面白かった.