籘真千歳 『スワロウテイル人工少女販売処』 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

一年で一生を終える花が、種を残し、次の年にまた咲いたとして、その二つが同じ花と言えるかどうか、そんなことを全能抗体(マクロファージ)は言いたかったのだろうか。

Amazon CAPTCHA

生殖行為によって感染をもたらす〈種のアポトーシス〉.関東湾の人工島に隔離されていた感染者たちは,己の権利を主張して日本からの自治を手にした.それから 20 年.男性と女性が触れることのない自治区では,"第三の性" として人工妖精(フィギュア)を生み出し,社会に迎え入れていた.
『θ 11番ホームの妖精』での出版デビューから約二年ぶりの新刊.21 世紀のさまざまな出来事を乗り越えて変容した日本.その中でもさらに特殊な立場にある自治区で,五等級の人工妖精・揚羽が"傘持ち"と呼ばれる連続殺人犯を追う.人工知能の反乱,終末の予言,微細機械,大歯車…….導入でだーっと出した雑多な情報を,説明・整理・組み立てながら物語を進めている,のかな.いかにもなガジェット小説が,読んでくうちにだんだん鋭さを増していく感覚だった.優しい人間と人工妖精の,帯に言う「苛烈なる」「共生」の意味はじわじわとクる.パーツがいちいち大胆でごちゃっとした未来像も面白い.匿名ネット社会と創作と記憶の共有の関係が特に興味深かった.良かったです.