神林長平 『蒼いくちづけ』 (光文社文庫)

蒼いくちづけ (光文社文庫)

蒼いくちづけ (光文社文庫)

月開発記念市からの巨大ビルから射出されたひとつの救命カプセル.その中には毒を大量に盛られ瀕死になったテレパスの少女がいた.カプセルから発せられる怒りの念波,《殺してやる》《殺してやる》《殺してやる》
SF の皮を被った現代の怪談.現代といっても 20 年前だけどな.地球まで届くほどの強烈な恨みを抱いて死にゆくルシアはお岩さん,ルシアを氷温保存したカプセルは殺生石かな.テレパスや月面都市など SF 的装飾が施されかなり賑やかな感はあるけどあくまで舞台と道具立てに留まっている印象で,話の芯にあるのはひとりの少女の恨みと悲しみ.恐怖と同時に無念や悲しさが先に立ち,不気味でありつつ綺麗な余韻の残るラストはまさに日本の怪談であり,それでいてきちんと現代的でもあった.