甘木つゆこ 『はさんではさんで』 (マガジンハウス)

はさんではさんで

はさんではさんで

子どもの頃のトラウマで女性に触れることが出来ない大学生・貴之に想いを寄せる女子大生のタロウ.触れたいのに触れられない,プラトニックな関係の発露を描いた『はさんではさんで』と,なんとなく休学してコンビニでのバイトに勤しむ大学生の日常『コンビニエンス・ヒーロー』の中編二作を収録.表題作は第 10 回坊っちゃん文学賞大賞受賞作の「タロウの鉗子」の改題.
それぞれに客観的視点と未成熟さを同居させた登場人物たちの描き方は落ち着いておりバランスが取れている.性的トラウマ,自傷,無気力など,現代的なテーマを扱いながらもさほど切羽詰まった感じはないのは大人の余裕のなせるものかな.都会に暮らす大人の強さを静かに描いた『コンビニエンス・ヒーロー』が好み.ライトな筆致の現代青春小説.手に取ったきっかけは志村貴子のカバーイラストだけど中身も決して負けてない.