川又千秋 『火星人先史』 (徳間デュアル文庫)

火星人先史 (徳間デュアル文庫)

火星人先史 (徳間デュアル文庫)

テラフォーミングが施され,地球人が移住を始めたばかりの火星.そこでは遺伝子改造され知能を与えられたカンガルーが安価な労働力=地球人の奴隷として過酷な環境のなか数多く使役されていた.時は過ぎ,地球で最後のカンガルーが死んだその日,火星で新しい人類が誕生した.
1981 年の第 12 回星雲賞受賞作.話の主題は「地球人」と「火星人」のイデオロギーの対立.どこにいても地球を求め,「地球」を離れられなかった「地球人」と,与えられた環境に積極的に適応し,自らを変えていった「火星人」.頑固で愚かな「地球人」と聡明な「火星人」.頭が悪く心を開かない「地球人」の軍司令と,精神的に長けた「火星人」の長老.構図はこの上なく明確で悪くはないんだけど,終盤に進むに連れてやりすぎなほど露骨になっていく対照は鼻についた.嫌いじゃないんだけどこれはエキサイトしすぎじゃなかろうか.むしろ,その対立を生んでしまった「地球人」の罪や,「火星人」として生きていかざるを得なかったノヴ・ノリスの,愚かしくも悲しい行く末といった話の背景のほうが輝いて見えた.面白かったんだけども諸手を挙げて,という感じではなかったなあ,と.