村田基 『恐怖の日常』 (ハヤカワ文庫JA)

1986 年から 88 年にかけて SFマガジンに掲載されたホラー短編集.初期発表の短編は SF 色が濃いものの話運びはぎこちなくホラーとしてもいまひとつ.87〜88 年と時期が下るほどに SF 色が薄くなるものの,それに変わるように狂った発想がすらすらと綴られるようになり作品の完成度も上がっていく.勝手な想像だけど,時間と共に SF というくびきから自由になっていった作者が自分の好きなものを描くようにしていった結果が後半の狂ったホラー作品の数々なのかな,と.ほんと,後期の短編は水を得た魚みたいに生き生きしているもの.
以下,特に印象に残ったもの.気持ち悪いだなんだと書いてますが言うまでもなく誉め言葉です.面白かったです.

「窓を通して世界を見るとき、ぼくたちは知らないうちに神の気分を味わっているのかもしれません」
「世界が世界として存在するための窓、それをぼくは <世界窓> と呼んでいるんです。考えてみればぼくは、この世に <世界窓> を見いだしたいのかもしれません」
(中略)
「窓の外がこの世界と同じであるという証拠はどこにあるんでしょう」

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妄想を抱えノイローゼになった会社員と,彼を治療しようとするカウンセラーの奮闘.男が次々と語る「窓」論が凄まじく面白く,現代的でもある.「窓」の外と内から私がとっさに連想したのは PC のモニターの向こう側とこちら側.20 年前の作者は何を考えながらこれを書いたんだろう,なんて想像も広がる.

白い少女

「奇形」の少女に魅入られてしまった大学生の末路.ラストの腹を大きくした少女の気持ち悪さときたら.書き込まれている感じはしないんだけど精緻なビジュアルイメージが頭に浮かべやすい.これと「大きくなあれ」,「子宮の館」は手法・アイデアとも平山夢明に近いものを感じた.

反乱

虫嫌いの男がひたすら色んな虫に襲われる,それだけの単純な話なのだけど,あらゆる手段・場所から這いよる昆虫の描写は凄まじく気色悪い.虫嫌いのひとは読むなよ! 絶対に読むなよ!

子宮の館

30 分 1 万円で超巨大な子宮への全身挿入の快感が得られます.母胎にいるときの全能感がすげーw

屋上の老人たち

暇をもてあました老人たちはささやかな刺激を得るために双眼鏡を持って屋上に集まる.後味の悪さは半端ない.

恐怖の日常

家族円満のために暗黙の了解のうちに犠牲にされた末っ子.これまた悪意やストレス,その捌け口の描き方が半端なく陰湿で半端なく気持ち悪い.