マイケル・シェイボン/黒原敏行訳 『ユダヤ警官同盟』 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ人の国として築かれたアラスカのシトカ特別区の返還期限が 2 ヶ月後に迫っていた2007 年.安ホテルでヤク中の男が殺害された.殺人課刑事のランツマンは捜査を開始する.
2008 年度のヒューゴー賞ネビュラ賞ローカス賞受賞の"トリプル・クラウン"を達成した,「歴史改変 SF +ハードボイルド・ミステリー+純文学」のスリップ・ストリーム・フィクション.悲願であるイスラエル建国に失敗したもののアラスカに希望と安住の地を構え,イディッシュ語公用語とする架空の「ユダヤ人の国」とユダヤ社会の現在,過去に積み上げてきたもの,国際社会での位置,その他もろもろ.手に入れた国を再び手放すことになるユダヤ人の宿命を,ハードボイルドの姿を借りてヒリヒリした緊張感を保ったまま描ききっている.シミュレーション小説としてもハードボイルドとしても十二分すぎるほど面白く,なるほど三冠だと納得した次第.ユダヤに関する知識が『アドルフに告ぐ』で止まっている私には正直どこまでがフィクションなのか判然とせず,そのあたりを分かりやすく解説している訳者あとがきが非常にありがたかったです.私にもう少し知識があれば,「民族の悲願」の持つ意味をもう少し理解できていればたぶん思うところもまた違ってくるんだろうなあ.機会があればいつか再読したい一作でした.