ガイ・バート/黒原敏行訳 『ソフィー』 (創元推理文庫)

ソフィー (創元推理文庫)

ソフィー (創元推理文庫)

マシューは語尾を濁したが、私は内心でうなずいていた。たしかにいろんなことが変わったのだ。それから、彼がなにもかも理解したと思いこんだのはいつのことだったろうという疑問が、頭のなかをよぎる。彼がまだ話していないことはたくさんある。
しばらくして、彼が言う。「ときどき、ぼくは自分の子供時代の意味を探すために、子供時代を過ごしたように思えるんだ。言ってる意味がわかるかどうか知らないけど」
「わかるわ」と私は言う。「とてもよくわかる」

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イギリスの田舎町で,ソフィーとマシューの姉弟は幸せな子供時代を送っていた.それから長い時が経ち,大人になったふたりはがらんとした部屋でふたりきり,向い合っていた.
子供時代の思い出を語るマシューと,それに向き合い様子を伺うソフィーの,時間を隔てた対話で綴られてゆく物語.ふたりのやり取りには着地点がまったく見えず,会話もどこか噛み合わない.語られる言葉は不穏なものをまとっていて,読んでいる最中,常に目に見えないなにかに胃を押さえつけられる不安感に苛まれる.なるほど,「幻想と郷愁の魔術的小説」という形容がこれ以上なくしっくりくる.