水田陽 『ロストマンの弾丸』 (ガガガ文庫)

怒りという燃料はお世辞にも上質とは呼べず、燃え上がることで体を突き動かすそれは、同時に未那の心を確実に消耗させていた。

心というのは大食らいな上に偏食家なきらいがあり、他の滅多な動機では動こうとはしてくれない厄介者だ。悪党の前で剽軽な態度を取ることで恐怖と怒りから一時的に目を逸らしても、こうして事がすんだあとには、見て見ぬふりをしただけの自分の心と向き合うことになる。

終戦を機にマフィアたちが流れ込んだ無法の街トーキョーは、いつしかロストマンズ・キャンプと呼ばれるようになっていた。フィオレンツァ・ファミリーと「名誉ある橙」の二大マフィアがしのぎを削るロストマンズ・キャンプには、いつからか嘴の覆面を着けた義賊「ビークヘッド」が、10年前に起きた事件を探っていた。

運び屋の男と嘴の覆面は、マフィアの銃弾飛び交う無法の街を駆ける。第15回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。トーキョーをめぐるマフィアの抗争に母を殺された少女の復讐劇。あるいは組織に身を捧げ、捨てられた男の覚悟の物語。どストレートなハードボイルドの、現代的な翻案だと思う。お約束を忠実になぞっているので大きな驚きはないけど、いい意味でシンプルな読み口になっていた気がした。