樺山三英 『ジャン=ジャックの自意識の場合』 (徳間書店)

ジャン=ジャックの自意識の場合

ジャン=ジャックの自意識の場合

「女の子のおちんちんは、お腹のなかについてるの」そう言ってから、下着を脱いだアンジュはまだ子供。ということは、ぼくもまだ子供、だった。でもぼくだけが戸惑っていて、おたおた、わたわた、ぱたぱたしている。おかげで思い出の、順序だってあてにならない。たしかそんなふうだった、と思う。だけど子供が子供だった頃、何をほんとうに見聞きしていた? 誰がそんなこと知るだろう? 誰も知らない。パパだったらば……パパは何でも知ってるから、よく知っていて、ぼくに教えてくれるのかもしれない。けれど今ここにパパはいない。

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1968 年,日本人青年医師の肉体にジャン=ジャック・ルソーの魂が降臨した.五人の子どもを捨て,六人目の理想の子ども「エミール」を育て上げるべく孤児院を創設したジャン=ジャックの自意識の物語.
今年 10 月に『ハムレット・シンドローム』をリリースした作者の,第 8 回日本SF新人賞受賞デビュー作.帯曰く「天使が舞い、混沌が支配し、血と精液にまみれた溟い幻想が憩う、濃密な作品世界」.ルソー,デリダロビンソン・クルーソー千一夜物語コロンブス…….過去に生まれた様々な空想と現実をモチーフに,脳と意識と世界の形を描き問う,甘かったり苦かったりの幻想風景.という理解でいいのだろうか.とりとめなくごちゃっと取り込まれた多様なモチーフは,それこそ混沌の様相.脳と幻想という意味では最近だと『バレエ・メカニック』に近いテーマだと思うんだけど,あちらは全体に茫洋としている感があるのに対し,こちらは核となる主題がひとつあって,それを混沌で包み隠すことで物語を作り上げるというアプローチの仕方.個人的には『ハムレット・シンドローム』よりずっと好みだった.良かったです.