円城塔 『烏有此譚』 (講談社)

烏有此譚

烏有此譚

「一体どんな気持ちかね。灰が降るということは」
言いながら僕もつられて草を咥え、先端に火を灯してみる。
「なんとも言えんね。記憶がぼろぼろと零れ落ちるというのとも違うし、だんだんと薄まっていくというのとも違う。虚しさが募るわけでなし、何かが急に懐かしいと思えるわけでもない。走馬燈は回らないし、思い出すべきことがあったのかは思い出せないし、感情が鈍化するという訳でもない。そういう部分は最後まで残ってしまう仕組みなのだろう。肯定形で言うならそうだな、秋口に似ている。これは」

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灰に埋め尽くされ,穴となった男の繋がってるんだかいないんだかよく分からない述懐.群像 2008 年 5 月号に掲載された『烏有此譚』に大量の「注」を加筆.結果として紙面の上部分の約 60 パーセントが本文,下の約 35 パーセントが「注」という構成が最初から最後まで,さらに注の中に注がネストされてるわと,小説としても単行本としてもへんてこなつくり.
つくりがつくりなので本文 → 注 → 本文ときどき注でつごう三往復読んだ.一回目の読み始めはひょっとして私小説なんかと思ったけど,読んでいくうちに分からなくなった.注のみ読んだ二回目はわりと俗っぽい解説があったり参考文献あげたり注者と著者が互いの見識に突っ込み入れてたり,だいぶ分かりやすく親しみやすくなった気がした.で三回目でもう一回本文読むと,なんで下(注)の知識から上(本文)のような話が出来上がるのか,やっぱり分からなくなるという.注があるとないとでは読後感がかなり違うんだろうなあと想像は出来るんだけど分からないのだった.面白かったです.