石川博品 『耳刈ネルリと十一人の一年十一組』 (ファミ通文庫)

耳刈ネルリと十一人の一年十一組 (ファミ通文庫)

耳刈ネルリと十一人の一年十一組 (ファミ通文庫)

彼女は王女様だ。
軽口をたたき合える彼女との仲がかりそめのものだとあらためて実感させられる。
山道を無心で歩いていてふと顔をあげたら日が落ちて一歩先すら見えなくなっていたときのような、唐突な絶望だった。

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季節は冬.「大ネルリの節句」を迎えて暦の上で成人になった二代目ネルリは,シャーリック王国に伝わる預言書「大ネルリの未来記」を継承することになる.これという変化もなく,相も変わらぬドタバタした日々ではあったが,時間は動く.未来記によると,ネルリが死ぬ日が間もなくやってくるという.
風変わりな学園もの,完結.冬を迎え,大雪の中で過ごす全寮制高校の生徒たちの生活が楽しい.風呂,雪下ろし,トイレほか,どう見ても不便な異国の生活が,楽しそうに凄く豊かに描かれる.さらに,国やら,文化やら,身分やら,色んなものが折り重なってできた八高という共同体とその人間関係.ことさらに強調したり,説明調だったりという雰囲気はないのだけれど,ゆっくりと静かなストーリーラインの上,表面的にはドタバタ学園ものの体裁に乗せて自然に語っている.世界観+生活感の魅せ方においてはライトノベルのなかでもトップレベルにあるんじゃなかろうか.そして緩急のある一人称で語られる密やかに燃えるような恋と,ネルリを殺す「毒蛇」の結末.ライトノベル読みだけでなく各方面で賞賛されるのもうなずける.素晴らしい作品だと思います.