チャールズ・シェフィールド/酒井昭伸訳 『プロテウスの啓示』 (ハヤカワ文庫SF)

ラーセンはようやくのことでだんまりを解いた。「なあベイ、おれは今まで老人ってものを見たことがなかったんだ。世界人口の半分が老人だったころはどんなだったか、想像できるかい? 髪も歯も、視力も聴力もなくなっちまうんだぜ」ぶるっと身震いして、「二百年前は、世の中はすっかりそんなふうだったろう。どうしてその時代の人間は耐えられたんだ? どうして連中は狂っちまわなかったんだ?」

プロテウスの啓示 (ハヤカワ文庫 SF 554) | チャールズ・シェフィールド, 酒井 昭伸 |本 | 通販 | Amazon

22 世紀.ひとりの医学生から,身元不明の染色体 ID コードを持った移植用臓器の情報が,形態管理局のジョン・ラーセンとベイ・ウルフのもとに寄せられる.これはすべての人間が中央データバンクに登録されているこの時代にはありえない出来事.調査を開始したふたりは,やがて大きな陰謀に巻き込まれてゆく.手がかりとなるキーワードは〈プロテウス〉,〈ヤヌス〉,〈肺魚〉,〈タイムセット〉.
整態技術の進歩により,人類が意識的な形態変化を選択出来るようになった世界で描かれる,「人間とは何か」の定義,あるいはその先の人類の行く末について.もしくは消えた天才マッドサイエンティストを追え.物語は頽廃的なんだけど,なんとなく話が重くならないのは,整態技術や BEC(生物学的設備機器製造会社:バイオロジカル・イクウィップメント・コーポレーション)や USF(宇宙連邦),マッティン・リンク・システムといったアイデア(というか言葉)の数々のカッチョ良さから来るのかな.いちおうハードSF を謳っている(カバーより)ものの,科学技術の詳細解説にはあまり重きを置いていないのがこの作品に関しては良かった.読みやすかったし最後まで良い意味でのバカっぽさと茶目っ気を保っていたように思う.第二部の中盤あたりから話がえらい飛躍したのは面食らったけど,小惑星パールがまたカッチョ良かったのであんま気にしない.
てことで面白かったです.人体改造は楽しいなあ!