神林長平 『七胴落とし』 (ハヤカワ文庫JA)

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

七胴落とし (ハヤカワ文庫 JA 167)

「あなたにはわからないさ。心をのぞけない……いやだ、ぼくは感応力を失いたくない」
「かわいそうに。でも……みんななくなるのよ。あなただけじゃないわ」
「いやだ。汚く染まるくらいなら死んだほうがましだ」
「年をとると逆になるわ。どんなに汚れても生きていたいって。大変だったわ、聞こえたでしょ、さっきの騒ぎ」

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感応力を持って生まれた子どもたちは,大人になると同時に感応力を失う.大人になる前の子どもが集められた「予備校」に通う脇田三日月は,感受性の欠片もない大人たちを激しく嫌悪しながら,目前に控えた誕生日を,大人になる日が来るのを恐れていた.
少年期の不安,焦燥.大人になることを目前に控えた故の危うさ.とかなんとかを,超能力を持った(しかし失いかけている=大人になりかけの)少年の思考を通して描く.感応力を使った危険な遊び「クリーム」のビジュアル的美しさや,「言葉が現実を創る」という,のちの作品にも継がれるこだわりなど.感応力でしかコミュニケーションを取ろうとしない子どもたちと,言葉しか操れない大人.間に横たわる薄皮一枚の断絶を,これでもかと言葉を尽くして厭世的に,わりととりとめなく,でも美しく,という.
三日月というフィルターを通して語られる社会の閉塞感は半端ないものであった.でもそれと同時に,汚く鈍感に日々を送る大人たちにも強い思い入れを持ってしまったのよな.腐りきるまで生きていく.そもそもそういうつくりの話だったのか,自分が大人だからそう思うのか.正直分からんのだけど,しかし非常に面白かったです.