ベン・H・ウィンタース/上野元美訳 『地上最後の刑事』 (ハヤカワ・ミステリ)

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

「べつに」私はゆっくりと首を振って、窓から駐車場をながめ、最後の一口を飲もうとコーヒーカップを持ちあげる。「おれは、この時代向きの人間じゃないような気がする」
「そうかしら? この時代向きなのはあんただけだと思うけど」

地上最後の刑事 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) | ベン H ウィンタース, Ben H. Winters, 上野 元美 |本 | 通販 | Amazon

半年後,地球と小惑星が衝突するとの予測が発表された.滅亡を目前にしたファーストフード店で,未来を悲観して自殺したと思われる死体が発見される.ある手がかりから他殺を疑う新人刑事のヘンリー・パレスは,孤独な捜査を開始することになる.
自殺に決まっていると誰もが(同僚刑事たちも)言うなか,ひとりの新人刑事だけは捜査を止めなかった.というとミステリ的にはよくある筋書きだと思うんだけど,滅亡を半年後に控え,荒廃の一途をたどる「プレ・アポカリプス」世界を舞台にしているのが特徴的なところ.たったひとり,自殺ではなく殺人であることを信じて行動する刑事は,立ち位置的にはヒーローなんだろうけど,どっちかというと感情のないサイボーグのように見える.被害者(?)であるピーターの行動原理は面白かったし,『ウォッチメン』や『エンダーのゲーム』といった具体的な作品が小道具として出てきたりボンクラに優しいのだけど,いまひとつ物語に乗りきれなかった感.