チャイナ・ミエヴィル/内田昌之訳 『アンランダン』 (河出書房新社)

アンランダン 上 ザナと傘飛び男の大冒険

アンランダン 上 ザナと傘飛び男の大冒険

アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲

アンランダン 下 ディーバとさかさま銃の大逆襲

「けどさ、すべてが運命で決まっているなら、英雄になったところでなにがえらいんだ?」ヘミはそう言って、すこし口ごもった。「おまえがやったことのほうがずっとすごかったよ」

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やせっぽちのザナと,背が低くて丸っこいディーバ.ふたりは対照的でありながらも仲良しの女の子.ディーバの家にザナが泊まったある夜.奇妙な音で目覚めたふたりは,壊れた傘が地面を這ってどこかへ行こうとするのを目撃する.好奇心をもって追いかけたふたりは,もうひとつのロンドンこと,裏ロンドンに迷いこむ.
奇妙な裏ロンドン(アンランダン)を舞台にした,ミエヴィルの少年少女向けファンタジー.内容は帯のコピー「現代版『不思議の国のアリス』」が分かりやすいかな.空を飛ぶ二階建てバス,多彩でバラバラな裏ロンドンの住人たち,バケツ忍者,おしゃべり大王などなど,まったく出し惜しみなし,アイデアとビジョンが怒涛のように押し寄せる.随所に挟まれるイラストもミエヴィルの手によるものだそうで,イメージに花を添えている.数々のキャラクターのなかでも,最初から最後までいいとこなしの予言書が不憫すぎて泣けた.
スモッグと裏ロンドンの戦争が佳境に入る下巻から物語が俄然面白くなった印象.賢く頭の回る子どもたちと旧弊で保守的な大人たちの対比は少し鼻についたけど,たくさんのルールや古くからのお約束を根っこから@@して進んでいく展開は痛快のひとこと.なるほど「現代版」とはこういうことかっ,と納得した次第.楽しゅうございました.