おかもと(仮) 『伝説兄妹!』 (このライトノベルがすごい!文庫)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

伝説兄妹! (このライトノベルがすごい!文庫)

何か創ることは楽しく、素晴らしい。その上、もしもそれが人を感動させることができたなら俺はきっと死んでもいい。俺はこんな大事なことを世界の終末まで忘れていたのだ。俺はにわか詩人、詩人気取りのいけすかない男だった。でも、賞賛されたいだけじゃなかった。俺は誰かを感動させたかった。どうして、俺はそんな大事なことをいつしか忘れてしまっていたんだろう。

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俺は詩人なのだ.だから働かない,働きたくない,社会になんか出たくない.柏木はダメな商大生だった.金に困って何か食えるものを探し,山に入ったあげく迷った柏木は,その奥で記憶喪失にかかった女児を拾う.自分とは比べものにならない詩の才能(+ある感情)を見て取った柏木は,女の子を弟子として家に置くことにした.
第一回「このライトノベルがすごい!」大賞・特別賞受賞作.強欲ボンクラ大学生柏木と,記憶喪失のデシ子(弟子だから)の愉快で奇妙な同居生活.舞台は小樽ってことで,メルヘン交差点で詩を売ったり,小樽商科大学流しそうめんを意地汚く争いながら食ったり.まあ土地の描写はそれほど多くないのだけど,雰囲気はあると思う.
なにより素晴らしいのが主人公柏木の一本筋の通ったボンクラ学生っぷり.金のためならなんでもやるけど怠け者,才能はまったくないのに根拠の無い自信と嫉妬心は強く,尊大な態度はまったく崩れない.なんつかえらい親近感を覚える.小説家志望の明津や動物の尻に異常なこだわりを見せる大塚など,脇を固める面子とのやり取りも面白く,ボンクラな雰囲気作りに一役買っている.ボンクラに神話を絡めたストーリーは万城目学っぽいかな? 柏木とデシ子の一方通行だった関係の改善や,クライマックスへ向けての盛り上がりなど,予想できるものではあるんだけど,キャラクターの印象付けが上手かったおかげでうるっと来てしまった.すげー良かったです.
『このライトノベルがすごい!』大賞 受賞作特集