東亮太 『妄想少女4 もし葛本くんが萌えっ娘だったら』 (スニーカー文庫)

「ユキちゃん、念のために訊いておくけど、僕がもともと着てた服も持ってない?」
「言ったでしょ? 着替えなんか持ってきてないって。あんたの服なら、私の家で預かってるわ。べ、べつにお洗濯まではしてあげる気ないからね? 勘違いしないでよね?」
「勘違いするつもりはないけど、ユキちゃんの家って魔界でしょうに……」

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夏コミ三日目終了の翌朝.光宏が部屋で目を覚ますと,ワンピース姿の紗衣がそこにいた.どうやらよく見てみると本人ではなく,肖像画から抜けだしてきた「二次元」の紗衣であるらしい.連絡をとろうとも紗衣本人は行方不明,ケータイは不通,さらに紗衣の運営する萌えっ娘イラストサイト「ミラージュ・ネル」は 404.いったい何が起きているのか.
二次元を三次元化するという原理不明の能力を軸に動く「萌え」青春小説.三巻での盛り上がりを引き継いで,物語は紗衣の内面へと,一歩踏み込んだところへ進む.「萌え」を語る落ち着いたテキストも含め,まれに見る素晴らしい安定感.三巻で不自然な点として描かれていた伏線もしっかり回収される.
それはそうと,クールな顔で「乳だわ!」と叫び,萌えポイントを語るヒロイン紗衣さんがここにきてだんだん可愛くなってきた不思議.ずっとクールな変人をとおしてきた紗衣の本心が,ようやく(ちょっとだけ)見えるようになるのがいいんだろうな.二次元キャラと現実の女の子の違いを,距離感の変化から描こうとしている(そして成功している)印象であった.だんぜん今後が楽しみなシリーズになってまいりました.