宙目ケン 『カミナリラヴァー』 (幻冬舎)

カミナリラヴァー

カミナリラヴァー

そういう暮らしが続くと、普通の感覚ではいられなくなる。例えば自分の父親バラク・オバマの間にさえ、違いが見出せなくなる。父がガンで他界する。ある日突然、オバマが暗殺される。僕はほぼ間違いなく、大統領の死により多くの涙を流すだろう。
こんな事を言うと、僕が家族なんてクソッタレだと思ってるように見えるかも知れない。が、それは完全な誤解だ。僕は、親や兄弟と会えばウットウしがられるほどよく話すし、最近では頼まれてもいないのに、オイっ子の成長DVDを1週間もかけて作ったところだ。
そして、その親愛にウソはない。それでも、僕には親族の死より、現アメリカ大統領の死の方が哀しい。

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ニートとしてどこにも行き場のないまま大山は 30 歳を迎えた.「アルカトラズからの脱出」を DVD で見た嵐の夜,衝動的に自転車で飛び出した大山は,目の前に落ちた一発のカミナリの下で 20 歳の金月キアラと出会う.ニート大山のメディア・ライフはおかしな変化を迎えることとなる.
第三回パピルス新人賞受賞作.ニートのひと夏のボーイ・ミーツ・ガール.というには年食ってるけども,ハードボイルドではないし,ボーイ・ミーツ・ガールのほうが感覚的に近いかな.話の肝にあるのは Web,Twitter,衛星放送,などに囲まれた,大山言うところの「メディア・ライフ」.ネットを介した,世界と自分との不思議な距離感覚を,非常に実感しやすい形で描いていると思う.ニートを描く小説によくある焦燥感・閉塞感はここにはなく,話に生産性や一貫性もない.のだけど,今しか通じない「21世紀型の超高難易度人生」を生で切り取ったもの,だったと思う.