八杉将司 『光を忘れた星で』 (講談社BOX)

光を忘れた星で (講談社BOX)

光を忘れた星で (講談社BOX)

「視覚の恐ろしさを貴様はまだ理解しておらんな。視覚は聴覚の音が聞こえる範囲と同等かそれ以上にある物体すべてを一瞬にして把握できるそうじゃないか。どこに何があり、誰がいて、何をしているのかすべてわかってしまうんだろう? 接触杖や路石なしでどこにでも歩いていける。走ることも飛ぶことも自由だ。人間の持つすべての力を解放できる。そうだよな。間違ったことを言っているかね、視覚の専門家よ」

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ここはある星.遙か空より移民してきた人類は,「視覚」を失ったまま数世代を経て,独自の文明を築きあげていた.ティリア修学堂の寄宿舎に住んでいたマユリは,行方の分からなくなった親友のルーダを探すため,ティリアから脱出する.
第 5 回日本SF新人賞受賞作家の長編第二作.遠い昔に視覚を失った人間は,どのように考え,感じるか.章ごとに,のべ四人の一人称で,「視覚」を使わない情景描写がなされる.視覚とほかの五感の関係,視覚と意識の関係,視覚が人間にどういったものをもたらすか.ある実験によって視覚を得たマユリの知覚の変化.「視覚」と「尻尾」のたとえも面白い.とにかく「視覚」をめぐるあらゆるアプローチが鮮やかで,しかも非常に分かりやすく肩がこらない.夢中になって読んでしまった.
衒いがなく素直な文章で,広い層にすすめやすいのもすごく良いポイントだと思う.今年もはじまったばかりでなんだけど,年間ベスト級の傑作であることは間違いない.とりあえずみんな読んでみるといいさ.