小川淳次郎 『百億の魔女 3』 (講談社ラノベ文庫)

百億の魔女3 (講談社ラノベ文庫)

百億の魔女3 (講談社ラノベ文庫)

初めて見る、ぎちりと、表情筋が張り詰め、骨や皮膚が悲鳴をあげる類のもの。
風子の顔ではない。そう認識することができないほどに歪んだ、憎悪が滾った顔だった。
「なにも、なにもされてないわえ。あたしは、本当のことを教えてもろうただけよ。本当のことだけを、教えてもろうただけよえ」
「本当ってなによ。ていうか、誰が来たがよえ」
「土佐弁を喋るな!」
怒号だった。激しく、蹴り飛ばすような拒絶。

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ついに始まった魔女戦争.零次の前に立つのは,百億の魔女と無道風子.そして失った零次の記憶を持った那由他.すべての決着がつくシリーズ完結編.電子書籍版専売になったことにしばらく気づかず書店をさまよってしまった.今後はこういう売り方も増えてくのかな.
トーリーは,記憶などといった,ひとを形作る「バックグラウンド」に非常に重きを置いている.共通するテーマをより直接的で,明確にしたのが次回作『稲妻姫の怪獣王』なのかな.このひとの作品に一貫していることなのだけど,とにかく熱い.理屈や技術や力の差は,愛や魂が超越するのだ,愛や魂が物語を動かすのだ,という明確な立場に立っている.この一貫した姿勢から描かれる物語がすごく良い.バトルがわかりにくいという欠点はまだ少し残っているけど,物語の熱がそんな欠点をカバーして有り余る.少女のために全方位に愛を叫びながら戦い,拒絶されれば本当に死んでしまうのではないかと思うほど落ち込む,という姿をこれほど熱く実直に描いてくれる作家はそうそういないと思うんだ.良いものでした.