- 作者: 六塚光,zinno
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2010/12/18
- メディア: 文庫
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一日の引っ越し作業で、疲れていたせいだったのか──
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夕食をとっている最中、僕はついうとうとと眠りかけ──次に気がついた瞬間、右手にビームソードを握っていた。
「ふぬわ!」
間抜けた声を上げてしまった。突然自分の右手からビームソードが飛び出したら、一体誰が冷静でいられるだろうか。
道清寺市瀬江.ここは 16 世紀の初頭に分社したふたつの瀬江神社を中心に,赤間と青木戸というふたつの地区が長いいがみ合いを続けていた.ふたつの神社はともに,蝉の頭を持つ神を祀っている.父親の都合とある出来事により,瀬江に引っ越してきた勇真は,「蝉の王」を決める戦いに巻き込まれてゆく.
「山王様」と呼ばれる同じ姿の異形の神を信仰しつつ,激しく憎みあうふたつの地区の歴史.郷土史 SF,というか土着信仰をテーマにした SF かな? 根っこの雰囲気は『ペンギン・サマー』に近いものがある.800 年前に現れた二柱の「山王様」がどのような信仰を生み現代に至ったのかの描写が非常に面白い.『異星人の郷』をライトノベルでやろうとするとこんな感じになるかもしれないとちょっと思った.……といってもそのへんのディテールはあっさりしたもの.不気味な争いに少しずつ巻き込まれていく描写はホラーでもあり,「山王様」や「セミホタル」をめぐる謎解きはミステリでもあり,エンターテイメントとしては申し分ないのだけど,山王様信仰についてもっと読みたいという気持ちになるなあ.あとがきでは「読み切り長編」としているけれど,この魅力的な設定を一冊で完結させてしまうのはもったいないと思う.