伊与原新 『プチ・プロフェスール』 (角川書店)

プチ・プロフェスール

プチ・プロフェスール

「あんたらみたいのをね、思考停止って言うのよ! なんにも確かめようとしないで、足がすくんでるだけのあんたたちに、理緒を悪く言う資格なんてない! 科学っていうのはね──」律は理緒をビッと指差した。「科学っていうのは、態度のことなんだよ!」
指された理緒が、顔を輝かせる。
「教授、それ、すっごくカガク的です!」その手には、いつものハンダごてが握られている。

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コペンハーゲン大学への留学資金を稼ぐ手段を探していた貧乏大学院生の律は,バイトをしていた塾で,ある女の子の個人教師をしてほしいと依頼された.やたら高い時給を訝りつつも,小学四年生の女の子・理緒の家庭教師を引き受けることになる.
理系大学院生と元気な小学生,理系女子=リケジョコンビが難事件(?)の数々に挑む軽快な連作短篇ミステリ.横溝正史ミステリ大賞受賞作家が描く日常の謎.ちょっとした科学うんちくを織りまぜつつ,幽霊騒動やストーカー騒ぎを,元気いっぱいの理緒に引っ張られながら解決していく.
律にしろ理緒にしろ,「普通」の人物なんだなーというのが読んでて強く思ったこと.理系女子に憧れてマイハンダごてを持ち歩き,決め台詞が「カガク的って、こういうことでしょ?」な女子小学生が普通かと言われるとアレなんだけど,そういうパーツ的な意味じゃなくてね.ただちょっと科学的な知識があって,科学を愛する姿勢があって,という.脇役を固めるキャラクターも,ちょっと変わった個性はあれど,特別すごい何かがあるわけではないんだよね.科学知識を使って謎を解く過程も,特別なことをするわけではなく,あくまで等身大で描かれる.科学に対する姿勢や信条は明快で,読んでいて非常に気持ちよく楽しめる.とても良いミステリだと思いました.