ユッシ・エーズラ・オールスン/吉田薫訳 『特捜部Q ―カルテ番号64―』 (ハヤカワ・ミステリ)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q ―カルテ番号64― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

「われわれが“密かなる闘争”で行なっていることは、ほとんど公にはできない。それはもちろん承知しているんだろうな。われわれは多くの危険にさらされている」
「ああ、もちろん」
「もし、きみが口を閉じていられなかったり、仕事をするときに慎重さを欠いたりしたら、きみには速やかに消えてもらうことになる」
男はうなずいた。「もちろんわかっている。そんなことにはならないさ」
「きみはつまり手順を伝授してほしいんだな? われわれが妊娠を中絶することが望ましいと考える女性を勧誘し、中絶、さらには不妊処置を行う手順を」

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未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の特捜部Q.次に彼らが扱うことになったのは,80年代に起こったナイトクラブのマダムの失踪事件.調査により同時期に5件の失踪が集中していたことが明らかになり,さらにはこの事件がデンマークの暗部とも言える事実へと繋がってゆく.
ある女性の壮絶な人生と復讐の物語.デンマークのスプロー島に実在した「女子収容所」(“デンマークでは、一九二九年から一九六七年までに、およそ一万一千人(主に女性)が不妊手術を受けており、その半数が強制的に行われたと推測されている。”)に端を発し,優生学民族主義を振りかざす極右政党〈明確なる一線〉を描く.シリーズの過去作品と比較しても恐ろしく過激な作品になっていると思う.極右政党党首クアト・ヴァズと,彼に人生を滅茶苦茶にされたニーデ・ヘアマンスンの現在と過去が同時進行する復讐劇は凄まじいのひとこと.カールとアサドが点と線をつなげていく過程にひたすら興奮した.出来事と事実をセンセーショナルに描くことに重きを置いて,人物描写が通り一遍になっているかなー,というのは読み終わってしばらく経ってから思ったことだけど,たぶん意地悪な見方ではあるよな.