元長柾木 『星海大戦 2』 (星海社FICTIONS)

星海大戦 2 (星海社FICTIONS)

星海大戦 2 (星海社FICTIONS)

「ここの老人たちのように、一週間でできることに一週間かけていては、俺たちはいつまでも時間の奴隷でいるしかない。人間として生まれた以上、一〇〇年後には、二〇〇年後、三〇〇年後の世界を見たい──そう思うものだろう?」
「人それぞれかと思いますが」
松永はそっけなく答えた。
「……それじゃあ、話が弾まないじゃないか」
敦彦は苦笑した。

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土星軍艦隊司令九重有嗣の仕掛けた遭遇戦により,木星(ユニオン)土星(クラスタ)の長きに渡る均衡状態に変化が訪れつつあった.休暇に生まれ故郷のイアペトゥスへ戻った有嗣.そこでは反タイタン派によるクーデターが進行していた.
スペースオペラ,シリーズ第二巻.一巻では木星圏と土星圏の双方に光を当てていたのだけども,今巻では土星の九重有嗣(表紙の男)に重点を置いている.硬直しきった,「愚かでくだらない世界」を「作りかえる」ことを各々が決意するまでを,びっくりするくらい愚直に描いている.ここまでストレートな物語になるとは思っていなかったのでちと驚いた.閉塞感と無縁の,常に前進を続ける物語になっているのが何よりいいと思うの.
微小重力下において「歩行」という統一した様式に基づく行動ができなくなった人類は,結果として安定した他者認識が取れなくなるという説や,人々の「苦悩」を代行する象徴としての王など,作品世界の歴史,技術的・思想的な背景も非常に面白い.一巻のあとがきでかなり挑発的なことを書いて一部で話題になっていたけども,ただのハッタリではなかったのだなあ,と.素直におすすめできる.次は木星側の話になるのかな.楽しみにしてます.