大泉貴 『ランジーン×コード tale.4 パラダイス・ロスト 1st』 (このライトノベルがすごい!文庫)

『そもそも日本に限らず世界中の、あるいは有史以来のあらゆる共同体において、構成員は皆、同じ人間であるという大前提が存在していました。
ファンタジーや SF のなかでしたら、人間以外の異種族の共生というものは幾度も描かれてきましたら、現実の問題として司法や政治の場で検討されたことは一度としてないのです。歴史上初めて、人間が異なる種族と隣同士で生きる世界に立ち会うことになった現在においても』
『それはつまり……』キャスターが慎重に言葉を選びながら問いかけた。『コトモノは、私たちの社会が想定していなかった異種族、つまり同じ人間からは外れた存在、ということでしょうか?』

ランジーン×コード tale.4 パラダイス・ロスト 1st (このライトノベルがすごい!文庫) (このライトノベルがすごい!文庫 お 1-5) | 大泉 貴, しばの 番茶 |本 | 通販 | Amazon

帰国したロゴの母親,武藤凛子は,コトモノだけが暮らす楽園をつくる“ノアの方舟”プロジェクトを発表する.コトモノによる事件が頻発していたこともあり,この発表に世論は大いに揺らぐ.人間とコトモノの摩擦が日々強くなっていく中,コトモノ反対デモの最中,ついに事件が発生する.
前後編の前編にあたるシリーズ四巻は,人間とコトモノが共存することについて,根本から問いかけている.数十年の時間をかけることで,ぎこちないながらうまくいくようになったはずの共存が実は表面だけのものでしかなく,薄皮一枚はがすとまったく別の姿が隠れていた,というショックや,コトモノと人間が隣り合って暮らしている社会の事情,それぞれの心情といった背景を,非常に真摯に,かつ出来る限りシビアに描き出している.キャラクターの描写も良くて,ひとりで抱え込むことの多い主人公・ロゴを支える大人たちの存在にほっとさせられてしまった.
巻が進むごとに,テーマがだんだんと明確に絞りこまれているのが読んでてすごく心地いいのですよね.前もつぶやいたりしたのだけど,SF としてもライトノベルとしてももっと評価されていい作品だと思うのですよ.