英アタル 『ドラゴンチーズ・グラタン 竜のレシピと風環の王』 (このライトノベルがすごい!文庫)

ドラゴンチーズ・グラタン (このライトノベルがすごい! 文庫)

ドラゴンチーズ・グラタン (このライトノベルがすごい! 文庫)

バレロンの様子を見たレミオは、なにかを悟ったように一歩前へ出た。
バレロンさん……アナタの夢はこんなところで潰えて満足なんですか?」
少年はジャケットの右袖をまくり上げて、包帯へ手をかける。
その問いに、バレロンはほんのわずか嘲笑を浮かべただけだった。
「だったら……この程度で潰れる夢が悪い」

ドラゴンチーズ・グラタン (このライトノベルがすごい! 文庫) | 英 アタル, 児玉 酉 |本 | 通販 | Amazon

シェフ見習いで食療学を勉強中の少年,レミオは,たまたま助けた病気の少女クレアに料理を作ってあげるため,マンドラゴラを探す旅に出る.レミオは旅先でアイソティアの少女アトラと,竜を殺すことを夢とする男バレロンに出会う.
テーマは料理の,竜と魔法の異世界を舞台にしたファンタジー.このライトノベルがすごい!大賞応募作品からのピックアップ,らしい.たしかに読んでみると技術的な粗はそれなりにある.特に情報の提示の仕方があまり上手ではなく,前半の物語に入るまでが非常に分かりにくい.ただ,世界観はしっかり作りこまれており,意欲はとても感じる.人間,アイソティア,風禽類という三種族が暮らし,独自のエネルギー(エーテル的な)が実用化された世界.料理フィクションとしてはシンプルなストーリーラインだし,ファンタジー世界についても特別新しいものだとは思わないのだけど,そのふたつを絡めた悪役のいない優しいファンタジーは,読んでてとても気持ち良い.これは今後に期待してもいいのではないかな.