ジョン・スラデック/柳下毅一郎編 『蒸気駆動の少年』 (河出書房新社)

蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)

蒸気駆動の少年 (奇想コレクション)

ヤムヤムが言った。「要するに、もう結婚は時代遅れなのよ。これは古代の風習なんだ。昔は良かったのかもしれない、まあ一九五〇年代とかなら。でも現代の要求は満たせない。今必要なのは結婚じゃなくて葬式なんだわ。人は多すぎるし、幸せが少なすぎる。結婚は適応できなかった。だから滅び去るのみ」
「絶滅するのもそう遠いことじゃない」とルーク。「最後の結婚カップルが博物館に展示されるんだよ。最後のクジラバーガーの隣に」

最後のクジラバーガー

その日遅く、ヘンゼルはグレーテルに冒険の話をした。思ったとおり、グレーテルは怒り、金切り声で怒鳴った。
「木がはらわたまみれ? 木がはらわたまみれなの?」
「はっはっは」
「木がはらわたまみれになったっていうのに、あたしを呼んでくれなかった!」
「はっはっは。おまえ、仕事してたろ」

血とショウガパン

自動車をレイプする怪物が大暴れする B 級モンスター映画のような「ピストン式」,月が消え重力が消えたことに関するある狂人の説明「月の消失に関する説明」,バカンスのため観光地に向かう高速バスでの延々たる旅「高速道路」,西部劇かぶれの虫(?)による侵略「ホワイトハット」,渡り鳥のように本が空を渡ってゆく(比喩でなく本当に羽ばたいて飛んでゆく!)ビックリ話「教育用書籍の渡りに関する報告書」,レジャーを満喫しいつまでも子どもらしくあろうとする“おとな”になれない“おとんま”の話「おとんまたち全員集合!」,本当は残酷なヘンゼルとグレーテル「血とショウガパン」
全 23 篇収録の短篇集.SF,ミステリ,ホラー,オカルト,多岐のジャンルに渡る短篇がどれも楽しい.これぞ奇想! というアイデアあり,ひたすら不条理だったりバカだったりする話もあり.上にあげた作品が個人的に特に好みだったのだけど,それ以外もすげー良かった.楽しかった.