丸山英人 『疑心恋心』 (ガガガ文庫)

疑心恋心 (ガガガ文庫)

疑心恋心 (ガガガ文庫)

「私や私の周りでは、俗信や疑似科学といった現象が、現実のものとなるんだ」
「俗信…………何だって?」
疑似科学という単語も聞き覚えがないけど、全体的に意味が分からない。
「俗信というのは、平たくいえば迷信みたいなものさ。より正確に言えば、俗信や疑似科学として定義されていなくても、ある一定以上の人に知られていたり、正しいと信じられている事柄であれば、実際にはそれが正しくなかったとしても、私にとっては正しいものとして扱われるんだ」

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“呪われた地学準備室”には白髪の少女がいる.彼女に相談すれば,しゃっくりを止めてくれたり,風邪を治してくれたり,抜群の効果が得られるらしい.そんなものは詐欺に決まっている! そう確信した八十島樹は,地学準備室の主・釣見朱鷺子の詐欺を見破ってやろうと,彼女にストーカー宣言をかましたのだった.
白髪の詐欺師(?)と,かつて詐欺被害にあいかけたストーカーの物語.俗信(しゃっくりを止めたければびっくりさせる,牛乳を飲み続ければおっぱいが大きくなる,など)や疑似科学(水さんいつもありがとうございます)を意図せず現実にしてしまう能力,から始まる話が,こんな綺麗で切ない物語になるなんてまったく想像できなかった.ストーリーテリングの妙味かな.比較的軽いトーンでいながら,落ち着いた雰囲気が出たテキストが非常に良い.諦観に満ちているのだけど,でも本気で他人のことを気遣う.騙されていることを分かっていながら,騙した相手を信じずにいられない,という優しすぎる少女の切ない姿にはグッと惹きつけられる.その分,七章ラストからエピローグの展開には素でニヤニヤしてしまったのだけどね.すげえ良かったです.