- 作者: 本岡冬成,九韻寺51号
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2012/09/19
- メディア: 文庫
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五年前、あのゲームセンターで負けたことが嫌で嫌で仕方なかった。それは五年たった今でも影を落としているし、五年前のことを持ち出してきたノラクロにしてもそれは同じ思いのはずだった。優征は、自分はずっと被害者だと思っていた。でも、そうではなかった。でも、そうではなかった。加害者でもあったのだ。
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「やったほうはすぐに忘れても、やられたほうはずっと忘れない──あいつが言っていたけど、そういうことなんですよ」
嫌だった。本当に嫌だったのだ。
そして、それほどまで自分が嫌だと思っていたことを他人にもやってしまっていた。気づかないうちにとは言え、やってしまった事実は覆らない。ならば、五年の時を越えて現れた彼女の挑戦を受けて立つことが、優征なりに考えたせめてもの誠意だ。
高校3年生にもなって進路のことが決められない小鳥遊優征は,縁あって小さなゲームセンター《ミドリ》でバイトをはじめた.変わり者ばかりの他のバイトや客に翻弄されながら,ゲーセンという空間に少しずつ馴染んでいった優征.ある台風の夜,彼の前に現れた少女がゲームでの勝負を持ちかけてくる.
たかがゲーム,されどゲーム.前半は,ゲームセンターという空間に集まる人々のある交流について.南洋幻想や田舎暮らし幻想,江戸時代は良かったよね幻想と似たレベルで,ゲーセン幻想みたいなものがあるのかもしれないなあ,というのが読みながら思ったこと.私もホームと呼ばないまでも,通いつめていたゲーセンが複数あった(今ではひとつも残っていない)し,それを素直に思い出させてくれる,懐かしい雰囲気をしっかり出している落ち着いたテキストはとても好きだけど,こんな奴らいなかったよ! みたいな気持ちも同時に湧く.まあディテールのしっかりした学園ものライトノベルなんかでもあることかもしれない.
後半は地下ゲームセンター賭博の話.前半と後半でこれほど話とリアリティレベルがガラっと変わるのは珍しい.それでも雰囲気は一貫しているのでなおさら変な感じ.続編を出すこと前提で書いていることはほぼ間違いなさそうだけど,どういう方向に進むのか読めない.つっても,繰り返すように雰囲気は良いので,見極めたい気持ちはありあり.