アンナ・カヴァン/山田和子訳 『アサイラム・ピース』 (国書刊行会)

アサイラム・ピース

アサイラム・ピース

はたして、私はこれから、自責の念に耐えていけるのだろうか? これは単なる反語疑問でしかない。なぜなら、とてつもなく大きな不幸と数え切れないほどの失敗とともに生きるのはとても苦しいことではあるけれども、それでもなお、死ぬのはそれよりはるかに難しいように思えるからだ。

いまひとつの失敗

私には友人が、恋人がいた。それは夢だった。

アサイラム・ピース

1940年に出版されたアンナ・カヴァン名義での最初の作品集.読んでの印象はメンヘラ鬱々日記というか,プロフィールどおりの短篇集といった感じ.漫画家の山田花子を思い出す.表現はたしかに美しく鮮烈ではあるのだけど,うっかり引きずられると危うい,かもしれない.母斑(あざ)を持つ同級生との異国での不可思議な再会「母斑」と,ある精神病院での出来事のスナップショットアサイラム・ピース」が特に好きかな.ほかの収録作品は「上の世界へ」「敵」「変容する家」「鳥」「不満の表明」「いまひとつの失敗」「召喚」「夜に」「不愉快な警告」「頭の中の機械」「終わりはもうそこに」「終わりはない」.後ろの短篇に行くに連れ,だんだんと作者自身の卑近な心情をダイレクトに描く物語になっている,ような気がする.