野崎まど 『know』 (ハヤカワ文庫JA)

know (ハヤカワ文庫JA)

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「一人の人間が持ち得るものはそんなに多くない。だからみんなでやるんだ。そうして世界を埋めるんだ。そのためには君の力も間違いなく必要なんだよ」
「でも……今更、僕に何が……」
「存在自体が大切なんだ。君がいること。物質としての質量と、情報としての質量。君の全てが必要なんだ。だから君は生きていれば良い。後は君であれば良い」
「……なんだか、酷い言われような気がします」
「ただ、せっかく生きているのだから」
先生は膝の上で手を組む。
「せめてその生は幸せでありたいものだな」

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2081年.情報材と《電子葉》の登場により,超高度情報化社会と新たな情報格差を迎えていた日本.京都で情報庁に勤務する官僚の御野・連レルは,失踪した先生が残したソースコードの中に,自分へ宛てたメッセージが存在することに気付く.
「知る」ということの意味が変質した世界において,「すべてを知る」こと.想像すること.知ることは生きること,生きることは知ること.《情報》を自由にするためには,情報に格差があったほうがいい…….並列的でシンプルな考察がひとつひとつ意味を持ち,やがて一本の線に,ひとつの点に収束してゆく感覚がすごく心地よい.最後のページをめくった瞬間,反射的にゾワッとして,本を閉じてラストの意味をしばらく考え理解することでまたゾワッときて,そのままゾワゾワが止まらなくなった.いやもうすごかった.