深沢仁 『睦笠神社と神さまじゃない人たち』 (このライトノベルがすごい!文庫)

睦笠神社と神さまじゃない人たち (このライトノベルがすごい! 文庫)

睦笠神社と神さまじゃない人たち (このライトノベルがすごい! 文庫)

綾乃は、鳥居の下にいる狛犬の元に駆け寄って狛犬を撫でた。
ぴたりとした石の感触。春の陽射しよりも冷たい温度。
いつもおんなじ顔をしてるから、狛犬は好きだ。
ずっとそこにいるから。

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高校一年生の冬基は,宮司である祖父と二人で睦笠神社に暮らしている.ある日,道端で拾ったイタチを家に連れ帰ってみると,夜が明けたら銀髪でオッドアイで二股しっぽの幼女になったでござる.イタチ娘ことライは自分は天から来た者であると言う.
神社を舞台に,妖怪(と呼ばれることは好まない)とか呪いとか,「事件」未満の地味な出来事を描いた,どっちかというと日常系の怪異譚.しかしこれは良いもの.落ち着いたテキストで,非常に雰囲気がある.淡々というよりは静謐というか凛としているというか.浮かず沈まず,一貫している.キャラの浮かび上がらせ方もうまい.何事にも執着せず,それでいて「自分を軽んじる」ことには誰よりも頑固な主人公,冬基のキャラクターが,読んでいくうちに彫刻のようにどんどん浮かび上がってくる感覚.良いキャラクター小説であり,日常ものでありました.