佐藤哲也 『シンドローム』 (ボクラノSF)

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

シンドローム (ボクラノSFシリーズ)

泥の中で、それはゆっくりと動いていた。のたうっていた。
ゆっくりのたうつそれを見て、ぼくは恐怖と軽蔑を感じた。
口には出せないような、恥ずかしいことが起きているのだ。
とても恥ずかしいことが起きているのだ、とぼくは思った。
ここで恥ずかしいことが起きているのだ、とぼくは思った。

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ある日,空から町はずれの山に火球が落下した.高校の窓から落ちる様子を見ていたぼくたちは火球の正体を探ろうとする.日常が徐々に非日常へ飲み込まれてゆくなか,ぼくはクラスメイトの久保田との距離が気になりはじめていた.
正体不明の存在によって沈んでいく町.それにも関わらず彼女との距離を測り続けるぼく.非精神的な人間,迷妄,愚劣だと周囲の人間を密かに蔑みながら,ひとりのクラスメイトとの距離の変化を何よりも恐れる主人公はひどく嫌なやつで,絶対に好きにはなれないタイプ.好きにはなれないのだけど,整いすぎて不安になるテキスト(紙面を見ると意味がわかると思う)でしつこく書かれる自省,内省がやけに心に浸透してくるというか,主人公に半強制的に感情移入させられてしまうというか.いやほんとすごい.なんというか,「人間が描けている」SFと言えるのではないか.読むとどっと疲れるので気をつけて読むと良いと思います.