竹林七草 『お伽鬼譚 亡者と鬼哭の怪異譚』 (T-LINE NOVELS)

お伽鬼譚 亡者と鬼哭の怪異譚 (T-LINE NOVELS)

お伽鬼譚 亡者と鬼哭の怪異譚 (T-LINE NOVELS)

「大勢の人間が語れば語るほど、言霊の力もまた強くなる。物語として『むかし、むかし』と語り始められる度に、御伽噺の中の怪異は今ではない架空の出来事とされ、現実に出てこられなくなる。御伽噺が必ず『めでたし、めでたし』で終わるのは知ってるわよね? 天邪鬼に殺され皮を剥がれた『瓜子姫』でも、狸に騙され媼の死体を喰わされた『カチカチ山』でも、御伽噺である限り最後は絶対に『めでたし』と言って締めくくるわ。
なぜならこの『めでたし』という言葉は、物語の内容に言っているものではないから。御伽噺を語り終えたとき、中の怪異が現実にまで溢れ出てきていないことに対して祝った言葉なの。いうなれば呪文よ。だからどんな陰惨な内容でも、それが物語のうちは必ず『めでたし』となる」

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人喰いの鬼の血を引いていると祖父より聞かされ育った高校生,如月和真.父が母を殺す場面を目撃してしまった和真は,生まれ育った家を出て伯母の家で暮らすことになる.突如襲い来る「殺人衝動」に苛まれる和真の前に事件が起こる.
御伽噺の持つ異形性に,一定の意味を与える現代怪奇譚.『猫にはなれないご職業』(感想)でデビューした作者の約2年ぶりの新作.久しぶりに新作が読めるのが嬉しい.怪異に対する解釈のとか情報の抜き出し方とか,独特の視点が楽しい一方,一冊の中にいろいろ詰め込み過ぎだとか,怪異を前にしてできることの条件が限定されすぎているとか,話運びはちょっと窮屈な感じもした.残酷さとユーモアのバランスが取れていた「猫には〜」と違い,終始悲壮感が物語を支配しているのもちょっと読んでて息苦しかった.このあたりはレーベルの特徴なのかな.