マーク・レイドロー/友枝康子訳 『パパの原発』 (ハヤカワ文庫SF)

パパの原発 (ハヤカワ文庫SF)

パパの原発 (ハヤカワ文庫SF)

この原発はたいしたものだ、とパパは思った。明るい銀色の、腰までの高さがあるドームはピカピカ光って、ほんの数時間前に仕事を終えた据えつけ作業員たちの汚れた手の跡をのぞいては、傷ひとつない。このために不要のものを取り払ったスペースで、今それがゴロゴロ、ゴトゴトと、かわいらしく音をたてている。ベスティンハウス製のリサイクラーの横、ガレージの裏の貯蔵キャビネットの下だ。裏庭に出るドアが少し開いて、ホースがそのわずかな空間の通っていた。恒久的なパイプが取りつけられるまでの取りあえずの処置だ。ほかのパイプの配置図が、壁に青いチョークで描いてある。
パパは自分で手に入れられるはずの経費節減を考えて、にやりとせずにはいられなかった。それは目の前の家庭用原子力発電装置自体のビジョンと同じようにうっとりさせられるビジョンだった。

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ジョンソン一家は新興住宅地に暮らす,パパを中心とした核家族.ある日,パパと仲の悪いお向かいのスミス家が家庭用ミサイルを配備.周囲の家を招いてのお披露目パーティーで,住宅地のゴルフ場を灰にしてしまう.スミス家に対抗心を燃やすジョンソン家のパパは,家庭用原発を配備することを決意する.
帯曰く,「アトミック・エイジに捧げるブラック・コメディ」.赤ちゃんはオーブンから生まれるし,住人は計画的に加速成長させられる.外界と隔絶された壁の中の安全な街,家族旅行はプラグ・イン.カバーとあらすじからは想像できなかったけど,バリバリに風刺を利かせた,ブラックなサイバーパンクだった.ほぼ30年前の作品だけど,家族ものが描く「家族像」はほとんど形が変わってないのね.そのおかげか,ユートピアものとしてもそれほど古びた感じはしない.良かったです.