下村智恵理 『エンド・アステリズム なぜその機械と少年は彼女が不動で宇宙の中心であると考えたか』 (スーパーダッシュ文庫)

「駄目だ駄目だ、お願いだから聞いてくれ! 詳しく説明している余裕はない。今すぐ充填シーケンスを中断するんだ。最悪の場合、〈リジェンタイル〉の陽電子脳が、昇位(オーバーフロウ)する。そうなれば、究極の演算能力を得た量子脳が情報的臨界(シンギュラリティ)に達し、マトリョーシカ・ブレインを……」
「わけわかんないこと言ってんじゃねえよ!」

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何かに導かれるように,群馬の片田舎の町を訪れた高校生,潤相五雁(うるそういかり)は,そこで五雁を待っていた金髪の少女,七星茉莉衣と出会う.同じ頃,渋谷では巨大な猿の姿をした機械の怪物が街を破壊していた.茉莉衣は,五雁たちを招き寄せた存在,〈リジェンタイル〉こそが,怪物に対抗し,宇宙と世界と人類を守る最後の希望であるという.
第11回スーパーダッシュ小説新人賞優秀賞受賞作.世界を改変する能力を持つロボットのようなもの(?)の,次元と時間と宇宙を巻き添えにしたごく個人的な戦い.SFっぽいけどそれほど中身のない用語を使い捨てで駆使した戦闘シーンは,何をやっているのかよくわからないのだけど,なんというか独特の雰囲気がある.というかニンジャスレイヤーによく似たアトモスフィアを感じる.敵を一体倒すのに数千人が巻き添えで殺されたりするのは普通にひどいし,上記の引用部分みたいに主人公が突っ込む箇所がいくつかあるのは,狙っているのか天然でやってるのか.後者のような気がするのだけど,やたらと回りくどくて憂鬱でかったるい文体も,読んでるうちにだんだん愛おしくなってしまっていた.読み終わってみると,帯のコピー“これは、新しいセカイ。”というのがしっくりくる.続きもポチりましたよ.